お仕事体験アプリ「ごっこランド」 身近な材料で「手作りごっこ遊び」 子どもの「やってみたい」を育もう

(上)「こっごランド」に登場するキャラクターたち  (下)「作ってあそぶ! ままごと&ごっこ」で紹介されている手作りのレジと洗濯機

 コロナ禍で迎えた2度目の夏。感染者数の急増や猛暑で、子連れでの外出もしにくい状況が続きます。「せっかくの夏休み、子どもにいろいろ体験させてあげたいのに…」。そんな保護者のため息が聞こえてくるようです。リアルな体験は難しくても、家の中で豊かな時間を過ごす方法はないでしょうか。ひとつの過ごし方として、デジタルとアナログ、2種類の「ごっこ遊び」を紹介したいと思います。子育て中のパパやママが中心になって開発したお仕事体験アプリ「ごっこランド」と、家にある材料で道具を手作りしての「ごっこ遊び」。どちらもともに「子どもの力を育み、実生活に結びつけられるように」「親子のコミュニケーションが豊かになるように」という思いが込められています。

400万世帯が利用「ごっこランド」 

 まず一つ目は、無料の社会体験アプリ「ごっこランド」。2013年にリリースされて以降、子育て世代(2~9歳の子どものいる世帯)の約3分の1にあたる約400万世帯が利用する。

 アプリ内では、航空、薬品、外食、食品など、40社以上の企業・団体が出店。ゲームを通して、さまざまな企業や職業の仕事を体験できる。

アイスクリームメーカーのコーナーでは、卵や牛乳、砂糖を探して材料をそろえ、画面に指を当ててグルグル回してアイス作りが体験できる

 開発を手がけたキッズスター社(東京都渋谷区)によると、製薬会社のコーナーで歯医者さんごっこを体験して歯磨きを嫌がらなくなった子や、食品メーカーのコンテンツで調理のために野菜を畑に取りに行く体験をして野菜嫌いがなおった子も。都内で小学校低学年の女児2人を育てる母親は「ゲーム内課金がなく10~15分で終えられるので安心して遊ばせられる。ちょっとした気分転換や、食事の支度をする間に遊んでいてもらうのにもいい」と話す。

子どものために「無課金、短時間」

 同社の平田全広(まさひろ)社長(48)は、中学1年と小学3年の男の子を育てる父親。「自分の子に不安なく遊んでもらえるように」を合言葉に、8年前に同じく子育て中のスタッフと作り上げたアプリだ。

 開発当時、「なりたい職業ランキング」といえば、男の子はスポーツ選手や警察官、女の子はケーキ屋さんやお花屋さんが定番で、長年変化がなかった。「世の中には子どもたちが知らない職業がまだまだある。将来の夢の選択肢が増えるといいな」と感じたのが開発のきっかけだ。

製薬会社のコーナーでは、歯科医になって、歯の汚れを落としたり、フッ素を塗ったりする体験ができる

 子どもが遊ぶアプリなので、「長時間遊ばなくても満足できる」「課金はしない」設計に。アプリで遊んだ後に「リアルでもやってみたい」と、子どもが能動的に実生活のお手伝いや行動をしてみたくなるようなゲームを目指した。

 企業と一緒に体験ゲームを考える際には、10人近くの子どもに試作品をテストしてもらった。達成感を重視し、ゲーム後に「『見て見て!』と画面を親に見せに行くかどうか」「もう1回やりたそうにしているか」を観察し、改良を重ねている。

「お掃除したい」→リアルな体験へ

 実際に、アイスクリームメーカーのコーナーでアイス作りをした子が「アイスを作ってみたい」、航空会社のコーナーで機内清掃を体験した子が「お掃除してみたい」と口にすることも。「子どもの『行ってみたい』『やってみたい』『調べてみたい』を保護者は上手に拾って、リアルな体験につなげてあげてほしい」と話す。

 子どもの意外な面に気付くきっかけにもしてほしいと願う。「親の知らない興味の方向性や強みが見えてくることもある。隣で子どもの様子を見ていると、親御さんにも発見があると思います」

手作り道具を使った「ごっこ遊び」

 もう一つは、家庭にある材料で道具を手作りして遊ぶ「ごっこ遊び」や「おままごと」。ペットボトルのフタや段ボール箱、ガチャガチャの容器やタオルが、お人形や洗濯機、レジスターやおいしそうなお弁当に変身する。

 NHKの図工番組「キミなら何つくる?」の造形スタッフを務める造形作家のまるばやしさわこさんは、著書「作ってあそぶ! ままごと&ごっこ」(マイルスタッフ)で、お世話ごっこやお店屋さんごっこを提案する。

 料理の制作過程はどれも、実際の調理の手順と近い工程になっている。おにぎり一つ取っても、完成すると見えなくなる具まで入れる。同書を手がけたマイルスタッフの編集担当・山下有子さん(49)は「まず集中して作り、次に作ったもので遊ぶという、2段階の『育みポイント』がある」と話す。

通販やテイクアウトの容器が材料に

 コロナ禍で通販やテイクアウトの機会が増えている今は、材料集めのチャンスだという。「段ボール箱やピザやハンバーガーの容器、包み紙やリボンはごみにせず、ぜひクラフトの道具にしてみて」

 山下さんのおすすめはメニューを使っての注文ごっこ。メニュー作りでは、字を書いたり絵を描いたり。値段を付けることで、数字への感覚も磨かれる。何より、注文を取るためにやりとりすることで、コミュニケーション能力が育まれるという。

 同じドーナツ屋さんごっこでも、年齢によって楽しみ方はさまざま。小さい子なら、注文して受け取ってとシンプルに遊び、年齢の大きい子は「3つで△△円です」と計算も盛り込んだやりとりに発展させられる。

 山下さん自身も、現在は小学6年になった娘と、よく同じようにして遊んだという。「成長するにつれて遊び方も変化するので、大人も付き合っていて楽しいのがごっこ遊び。お手伝いや片付けの習慣を、ごっこ遊びを通じて身に付けさせることもできます」

スマホがなくても、静かに過ごせる

 山下さんは「今の子は、スマホがないと静かに過ごせないと言われるが、本当は退屈していなければ子どもは静かに過ごせる」と指摘。集中して静かに遊べるようになると、少しかしこまった場やお店にも連れて行けるようになり、大人の選択肢も広がるという。

 都市部は住宅事情もあり、にぎやかに鬼ごっこや隠れんぼをして遊びにくい家庭も少なくない。「そんな時に、スマホやゲームだけに頼るのではなく、昔ながらの手作りのごっこ遊びに挑戦してみてほしい」と話す。

造形作家まるばやしさわこさんの著書「作ってあそぶ! ままごと&ごっこ」(マイルスタッフ)