遊びに没頭できる子どもの居場所、広がれ 川崎が舞台のドキュメンタリー映画「ゆめパのじかん」 重江良樹監督の願い
川崎市子ども夢パーク
市が子どもの居場所の確保や存続に努めることを定めた全国初の「子どもの権利条例」に基づき、高津区の約1万平方メートルの工場跡地に2003年に誕生。幅広い年代の子どもたちを無料で受け入れる。公益財団法人「市生涯学習財団」とNPO法人「フリースペースたまりば」が共同でつくる事業体が、指定管理者として運営する。
不登校の子どもの居場所に3年間密着
泥だらけになって遊ぶ子どもたちでにぎわうプレーパーク、ゴロゴロできる部屋。不登校の子どもが通うフリースペースも併設されるゆめパ。作中、虫や動物が大好きな小学生の男の子「リクト」が、アリが出入りする巣穴をのぞき込む。カマキリをつかんで、カメラに見せる。
「時計を気にせず、やりたいことに没頭する姿を大事にしてほしい」との思いから、映画のタイトルを「ゆめパのじかん」とした。
「ここにはいろんな人がいて、考え方の違いも知れるし、知識が増えていく」。11歳になったリクトは、ゆめパについて記者にこう語った。「学びの選択の幅が増えれば、みんな豊かで幸せになる。自分も幸せで、他人も幸せでいることが夢」
重江監督は前作「さとにきたらええやん」(2016年)で、大阪市西成区の児童施設に密着。公開後の反響には、同様の居場所が身近にあればと嘆く声が少なくなかった。「子どもの自死やいじめ、悲しいニュースは全国で起きている。もう一度、子どもを中心にすえた信頼できる大人の存在がある『居場所』をテーマに撮りたいと思った」
そこで着目したのが「条例をつくり、税金を使って整備された子どもの居場所」であるゆめパだった。当時所長を務めていた西野博之さん(62)も「子どもたちがやってみたいことに挑戦し、育っていく姿を撮ってくれたら」と快諾。重江監督は19年春から3年間、大阪市から夜行バスで通い、子どもたちと信頼関係を築いて撮影を重ねた。
自発的に学ぶことの意義、穏やかに描く
映画では、子どもたちが出店する一大イベント「こどもゆめ横丁」やどんど焼きといった季節行事を織り交ぜながら、学校に通わずに日中を過ごす子どもたちが、個々の興味を突き詰めながらも自発的に学ぶことの意義や将来を考えて揺れ動くさまを穏やかなトーンで描いた。
昨年所長を退き、現在は総合アドバイザーとしてゆめパを見守る西野さんは「他者から評価されないと安心できず、生きづらさを抱える子どもが増えている」と指摘する。「映画では、ありのままで肯定されて生きる子どもたちが、自分の好きなものと出合い、自ら育つ『じかん』が描かれている」と太鼓判を押す。
重江監督は「ゆめパのような規模は難しくても、信頼できる他者のまなざしがある『居場所』というエッセンスを持った場が、必要とする全ての子どもたちの近くにあるようになってほしい」と話す。
中野で公開中、川崎などでも順次上映
映画は、東京都中野区のポレポレ東中野で公開中。川崎市アートセンター、横浜市のシネマ・ジャック&ベティなどでも順次上映される。