注文の多い公園、楽しめますか? 24枚もの禁止看板 練馬区の担当者に疑問をぶつけると…
苦情のたびに立て「何枚か分からない」
飯沢さんが指摘する「いずみの里公園」(練馬区)は住宅地の一角にある。テニスコート10面分ぐらいの広さに、禁止事項を書いた看板があちこちに立っている。A3用紙サイズに9行にわたってぎっしりと注意書きが記された看板も。バイク禁止の看板は3枚あった。サッカーボールで遊んでいた男児(8つ)は「こんな数え切れないほど看板がいるの?」とあきれていた。
公園を管理する練馬区西部公園出張所の宮津裕子(ひろこ)所長は「苦情のたびに看板を立てているので、今、何枚あるか分からない」という。記者が24枚あったことを告げると「それは多い。苦情がなくなれば撤去しようと思っているが…」と歯切れが悪い。
練馬区「いずみの里公園」の主な禁止看板
- 固いボールを使った遊びはやめてください
- すべりだいをかけあがらないでください
- 火気厳禁 バーベキューや花火などは禁止です
- 空き缶やペットボトル等のゴミは持ち帰ってください
- マスクを着用し、密集、密接を避け、すいた時間、場所を選ぶよう心がけましょう
- 植込みに入って植物を踏むと枯れてしまいます。注意してください
- 公園の植物はみんなの物です。折ったりして遊ばないでください
- 園内バイク 乗入禁止
- 公園利用者へ重要なお知らせ この周辺は比較的閑静な住宅地で、緑豊かで安全で良好な住宅環境の保全が必要です。最近、植栽内の低い樹木の踏み荒し、枝折りが多発しています。また、すべり台の駆け上り等の危ない行為、うるさい音を発生させる行為が頻発しています。緑地保護、静かな環境、安全な地用、近隣とのトラブル回避のために、皆様のご協力をお願いいたします
公園の近くに住む男性(87)は「苦情を言ってきた人に対して『ちゃんと対応しましたよ』という区のポーズでしょ。看板を立てて、どれだけの効果があるのか」と冷めた目で見る。
コロナで苦情増加 「看板頼み」の実情
練馬区には700カ所近い公園があり、東京23区で最も数が多い。年間に寄せられる苦情は約3000件に上る。区によると、コロナ禍で外出を控えるようになってから件数は増えており、苦情対応に多くの時間を割かれているという。
練馬区道路公園課の小山(こやま)和久課長は「看板は少ないほうがいいが、まずは苦情に応えることが優先。素早く対応できるし、看板を理由に注意しやすい」と、トラブル回避へ看板頼みになっている実情を口にする。
関東学院大建築・環境学部(こども環境学)の中津秀之准教授は「禁止看板の多さは、地域のコミュニケーション不足を示すバロメーター。重要なのは住民同士の対話による合意形成だ。もっと住民を巻き込んだ公園運営を考えては」と提案する。
川崎市や横浜市「規制だらけ」から脱却
禁止看板が目立つ公園は練馬区に限らない。かつて東京新聞の発言欄にも、ボール遊び禁止の看板を見た北区の男児(11)から「友達と楽しく遊ぶためにある公園も、遊べないなら意味がない」との投稿が寄せられた。
そんな「規制だらけ」の公園から脱却しようという動きもある。
川崎市は3年前から、禁止していたボール遊びについて、地域の理解が得られれば看板の表記を変更し、周囲に迷惑をかけない条件で遊べるようにした。横浜市では、地域住民が公園を管理する「公園愛護会」という住民参加型の公園管理をしている。市内約2700カ所のうち、9割が愛護会の管理だ。
住民の自主管理制度 高齢化で広がらず
その1つ「富岡並木ふなだまり公園」(横浜市金沢区)は、いずみの里公園の10倍以上の広さを持ちながら、禁止看板は「水に入ってはいけない」の1枚しかない。
ふなだまり公園北側エリアの愛護会は10~80代の36人で構成。会長の高島哲さん(75)は「景観を守るため、禁止看板は立てないようにしている。苦情があれば会のメンバー同士で話し合って解決策を見つけている」と話す。
練馬区にも同じような「住民自主管理制度」という仕組みがある。申請は自治会単位で、「清掃は週3回」「3カ月ごとに報告書提出」などと参加条件が厳しい。制度ができて20年以上たつが、導入は全体の1割にも満たない。区の小山課長は「自治会の高齢化による担い手不足もあって、なかなか利用が広がらない。住民の声を吸い上げられるような運営をしたいのだが…」とこぼす。
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