<記者の視点>子どもを親によって分断しない明石市の子育て施策 社会全体で負担を分かち合うには
医療、保育、給食…「5つの無料化」
「異次元じゃなくていい、グローバルスタンダードにしてほしい。今の日本はあれもこれも不十分なので、全部やる必要がある。『金がないからしない』は政治ではない」
独自の子育て施策で注目される兵庫県明石市の泉房穂市長は2月、立憲民主党の会合に招かれ、政府が検討する少子化対策に厳しく注文を付けた。
2011年の市長就任以来、「子どもを応援することが市民みんなのためになる」と訴え、この10年余りで市の子育て関連予算を2倍、担当職員の配置を3倍に増やした。18歳までの医療費や第2子以降の保育料、中学の給食費など「5つの無料化」を実施し、養育費の立て替え払いや高校進学奨学金、児童手当の上乗せなどにも取り組んでいる。
所得制限をなくし、生まれた好循環
最大の特徴は、所得制限を設けないことだ。「日本はあらゆるところで子どもを親によって分断している。明石市は子ども自身に着目し、等しく対応する。すると、まちのみんなが応援団に回る」と語る。その言葉を裏付けるように、市民の出生率は上昇し、子育て層の転入が相次いだことで人口は10年連続増。税収も伸び、高齢者福祉などにも予算を回せる好循環が生まれているという。
自身の経験を踏まえて、子育て施策に求められているのは、安心感を与えることだと言う。「市民、国民が『大丈夫』というところまでいかないと。選挙対策でやったふりしても、みんな見抜いている」と力を込める。
「予算倍増」中身を明言しない首相
内閣府が2021年に公表した国際意識調査では、日本人の6割が日本について「子を産み育てにくい国」と回答。親たちの任意団体「子育て支援拡充を目指す会」が2月に発表したアンケートによると、教育費などの経済負担と、幼少期の労働負担を理由に、約65%が希望する子どもの数を持てていないと答えた。
岸田文雄首相は1月の施政方針演説で、将来的なこども・子育て予算の倍増を掲げ、「安心してこどもを産み、育てられる社会をつくる」と宣言した。しかし、倍増の水準や期限は示さず、どう財源を捻出するかも明らかにしていない。少子化対策はこの10年が勝負といわれるが、国会論戦でも「政策の内容を具体化した上で必要な財源を考える」と繰り返すばかりだ。
3月末までに提示「具体策」に注目
所得によって線引きされる施策は、受給打ち切りの不安と常に背中合わせだ。国を将来にわたって維持していくためにも、子育てにかかる経済的負担は社会全体で分かち合うにふさわしい投資と言えるが、それを家庭に負わせ続けてきた政治の責任は重い。
これ以上、子どもを産むのを諦める人が増えないよう、考え得る限りの施策を素早く実行してほしい。この国は、どんな「安心」をつくり出せるか。
まずは3月末までに提示される具体策のたたき台を注視したい。
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