配偶者を人前でどう呼ぶ? 40代は「旦那・嫁」30代は「夫・妻」 若い世代ほどニュートラルな傾向
アンケートに8400人が回答
自分や相手の配偶者のこと、人前でどう呼びますか-。中日新聞のインターネット上の読者アンケート「中日ボイス」で尋ねたところ、約8400人から回答が寄せられ、年齢が高い層ほど自分の配偶者を「主人」「家内」と呼び、若い世代ほど中立的な呼び方を好むなど、年代で傾向が異なることが鮮明になった。「適切な呼び方が分からない」との意見も。専門家にその背景や良い呼び方も取材した。
年齢が高いほど「主人・家内」
アンケートでは主に、自分の配偶者、相手の配偶者を人前でそれぞれどう呼ぶかや、配偶者間での呼び方について尋ねた。
まず、自分の配偶者の呼び方の結果は、表の通り。年齢が高いほど女性は「主人」、男性は「家内」と呼ぶ人が多く、80代でいずれも約4割。若い世代ほど「夫、妻」「名前やニックネーム」で呼ぶ人が多かった。
70代男性は「家内」が22%、「女房」が19%と多く、50、60代男性では「嫁(さん)」「妻」をよく使う。40代男性は「嫁(さん)」が36%で最多だったが、30代男性は「妻」(36%)が最も多かった。
70代女性は「主人」「夫」と呼ぶ人が多く、40、50代の女性では「旦那(さん)」が約4割で最多。30代は「夫」が32%で「旦那(さん)」を上回った。
配偶者間「おい・ねぇねぇ」も
配偶者間の呼び方では、大半が「名前やニックネーム」か「お母さん、ママ、お父さん、パパ」で呼んでいた。
30、40代は7割近くが「名前やニックネーム」で呼ぶのに対し、60~80代は「お母さん、ママ、お父さん、パパ」を使う人が最多で、45%ほど。年齢が低いほど前者が、高いほど後者が多い傾向がみられた。「おい、ねぇねぇなど、呼ぶ名前がない」は約10%。高齢者に多く、70代の14%が最多だった。
配偶者の呼び方を巡って、「嫌な思いをしたことがある」と答えたのは、男性が6%。女性は17%で男性の約3倍だった。男女、年代別では、30代女性が32%で最も多かった。
アンケートは7月5~11日に実施、中部9県を中心に8389人が回答した。
悩ましい…話し相手の配偶者は?
「決断は男、女は家」の慣習が今も
女性については、8割以上が「奥さん・奥さま・奥方」で、少数だが「お嫁さん」と呼ぶ人も。性別などに関係なく「パートナー」「おつれあい」を使う人もいた。
「ご主人さま」「奥さま」と呼ぶことが定着したことについて、「商習慣、会社文化の影響が大きい」と話すのは、ジェンダー論に詳しい相模女子大大学院特任教授の白河桃子さん。「不動産や金融関係の営業などでは『重大な決断をするときは男性に』『家に行けば女性が対応してくれる』という慣習が今も残っていて、影響は大きい」
同じくジェンダー論が専門の京都産業大教授の伊藤公雄さん(71)は「不快な思いをする人がいない、対等な言葉に少しずつ変えていけたらいい」と提案。「つれあい、パートナー。丁寧語ならおつれあい」を勧める。「テレビで『うちの嫁』と言う芸人さんたちも『つれあいが』と言うようになれば少しずつ変わるかも」と期待した。
「パートナー、つれあい」なら対等
ジェンダー、性差別の問題に取り組む一般社団法人「Voice Up Japan」代表理事の山本和奈さん(26)は「『パートナー』という呼び方がインクルーシブ(包括的)で良い。話し相手に伝わりにくそうなら少し説明すればいい」と言う。「相手が結婚している、異性愛者だ、といった前提を押しつけない姿勢も大切。夫婦、カップルは平等で、呼び方も平等であるべきだ」
白河さんは「誰かの妻や母親といった役割に縛られない呼び方がいい。名前で呼ぶことが一人の人間として尊重することになる」。言語学者の遠藤織枝さんも「関係性の中で、名前で呼べるのが理想的」とした。
【専門家の分析】若い人ほど上下がない
「嫁」はテレビの芸人の影響か
「主人」の呼び方は、「戦後の高度経済成長期、男性の稼ぎで一家が暮らすスタイルが定着し、広まったようだ」と伊藤さん。研究によると、第二次世界大戦前は少数派で、言語学者で文教大元教授の遠藤織枝さん(85)は「1934年ごろの新聞の投書や身の上相談欄の記述を調べると、夫は79%に対し、主人は20%。当時は女中や召し使いが使用者を『ご主人様』と呼んでおり、妻が言うと誤解を招いた」と説明した。
ミドル世代の男性が妻を「嫁」と呼ぶ傾向について、遠藤さんは「テレビで関西の芸人が『嫁はん』などと言う中で広まったといわれる」と指摘。「本来は息子の妻を指す言葉。家父長制の名残が強く、今の時代におかしいはずだが、最近は国語辞書にも『妻を指す俗語』と記されるようになってしまった」と話す。
高齢女性は我慢してきたのでは
配偶者の呼び方には、若い女性がより違和感を覚えている。「Voice Up Japan」の山本和奈さんは「かつては専業主婦が普通だったが、共働きが多くなり、不平等な呼称により敏感になっているのでは」と分析。「これまで高齢の女性もモヤモヤを感じていたと思うが、かつては我慢するのが良妻賢母の美徳とされて、違和感を声に出しにくかったのかも」と指摘した。
昨春に真打ちに昇格した落語家の蝶花楼桃花さん(42)は、配偶者間の呼び方について「江戸時代の古典落語は、妻を『おっかぁ』、夫を『おまえさん』と呼ぶ。それぞれの時代に流行した呼び方があって、特にみんながこだわりや意思を持っているのでなく、日常の中で耳にした言葉を同じように使う場合も多いのでは」。
その上で、相手が呼んでほしい名前で呼ぶのが一番とも。「呼ばれている当人が嫌でなければ、それぞれの関係の中の話。例えば、『嫁』などと呼ばれキュンとする人もいる。心地よい呼ばれ方は人によって異なる。多様な呼び方を許容できることが大切」と話した。
◇「主人」本当は嫌。私は奴隷ではない…アンケートのさまざまな声
アンケートには、さまざまな意見が寄せられた。40代の主婦は「夫のことを『ご主人さま』と言われると『私は召し使いでない』と不愉快になる」。公務員の20代女性は、「『奥』は家事をする人のイメージ。共働きが多い今の時代に、奥さんは合わない」とした。
違和感を覚えつつも「つい言ってしまう」との声も。接客のアルバイトをする10代女性は「奥さま、旦那さまと言われて不快な人もいると分かっているが、それ以外に丁寧な表現が分からない」と打ち明けた。自分の夫を「主人」と呼ぶ50代女性は「本当は嫌で『私は奴隷ではない』と思うけど言ってしまう」。一方、自営業の40代男性は、配偶者の呼び方が複数あることは「時と場合と関係性などで使い分けてきた日本の文化の一つ」だとした。
メディアへの注文も。「テレビの海外ドラマで、英語でハズバンド(夫)と言っているのに『主人』と訳されていて腹が立った」と70代女性。公務員の50代男性は「夫婦の呼び方の議論を始めるなら、メディアは良い呼び名はこれとの答えを持って臨んで」と訴えた。
夫から名前で呼ばれたことがないという70代女性は「人前で呼ぶ時も『おい』。もし私が先に逝くことがあれば、皆が見守る中で何と呼ぶの? さんずの川を渡る前に、大きな声で私の名を呼んで」。60代男性は「相手の呼ばれたい呼び名で呼んであげるのが一番」と寄せた。