〈絵本さんぽ〉吉祥寺 Main Tent 誰かが手にした絵本を次の人へ「それぞれの大切な思い出がつまっている」
魅力的な絵本の店を記者が訪ね、紹介します。
サーカスのテントに迷い込んだよう
絵本専門の古本屋「Main Tent(メインテント)」。オーナーの名前が「フランソワ・バチスト氏」と知り、興味を持って訪れた。吉祥寺駅北口から徒歩10分ほど。店先でライオンの親子のぬいぐるみが出迎える。店内は赤と白のカーテン、猿のシャンデリアなどが飾られ、サーカスのテントに迷いこんだようにドキドキした。
オーナーの本名は冨樫チトさん(47)。フランスの童話「みどりのゆび」の主人公・チト少年にちなんで、両親が名付けたという。物語の冒頭で、チト少年が教会でもらった名前がフランソワ・バチストだ。
「絵本を卒業することなく生きてきた」
絵本好きの両親の元で育った冨樫さんは、「絵本にはゴールがなかった。どれだけ読んでも、美しい絵本がたくさんあって、卒業することなく生きてきた」と話す。2015年2月にオープンした店には、約5000冊の国内外の絵本が並ぶ。いずれも、一度誰かが手にしたもの。「大切にしてくれるところに渡したいという思いで、遠方からも買い取りの依頼があります」
この店の絵本は一冊一冊が必ず違う
新刊の書店とは異なり、「この店には同じ絵本があっても、一冊一冊が必ず違う。それぞれ子どもたちの大切な思い出が詰まっている」という。本来なら捨てられるような子どもの落書きが残った絵本も並ぶ。
冨樫さんは、ダンサーとしても活動。打楽器などの音色を口で表現するヒューマンビートボックスとともに絵本の読み聞かせをするユニット「カーテンアケロ」としても、全国の小中学校などを回っている。
大人が絵本と再会する瞬間何度も
「絵本はマトリョーシカ人形の内側のようなもの」と冨樫さん。外側は大人でも、内側にはさらに小さな人形があり、子どもの頃に育まれたものがずっと変わらずに存在する。
「大人が絵本と再会し、子どもの頃に読み聞かせをしてくれた親の体温や声、匂いを思い返すシーンを、何度も見てきた。まるでタイムマシンのようです」
Main Tent
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2の7の3
電話:0422(27)6064
平日午前10時半~午後5時、土曜午前10時半~午後5時半、日曜祝日午前10時半~午後6時。水曜定休
冨樫チトさんおすすめの1冊
◇クリスマスまであと九日-セシのポサダの日 作・マリー・ホール・エッツ、アウロラ・ラバスティダ 訳・たなべいすず
まもなくクリスマス。メキシコではクリスマス前の9日間、毎晩どこかの家でポサダのパーティーが開かれます。小さな女の子セシは、初めてポサダのお祭りをしてもらえると大はしゃぎで…。
おすすめポイント
僕にとって良い絵本とは、文章に出し切れないものを絵で描いている作品。文章で「悲しい」と書くとき、「悲しい」という言葉の前には彩り豊かないろいろな感情があります。一つの言葉にした時点でフリーズドライのように固まってしまう感情をもう一度溶かす力が、良い絵本にはあると思います。
限られた色だけで表現されている、このメキシコの絵本もそんな一冊です。僕の娘の名前は、この本の主人公の「セシ」から取りました。