N響特別コンマス「まろ」こと篠崎史紀さん 初めての絵本に込めた思い「音楽で世界中に友だちができる」
「一緒に演奏すると争いは起きない」
「『バイオリンを弾いたら、世界中に友達ができるよ』と両親に言われて育ちました」。篠崎さんは、バイオリンの指導者で幼児教育に携わる両親に、3歳のころからバイオリンの手ほどきを受けた。18歳でウィーンへ渡り、言語や人種、宗教の壁がある中で、実際に音楽を通じて多くの友達ができたと振り返る。
こうした自分の経験を下敷きに、子どもたちに読み続けてもらえる絵本の物語を書くことにしたという。絵本では、ネコの「マロ」が新しい町で出合った動物たちに楽器を贈り、演奏を通して、友達の輪が広がっていく。登場する魔法の言葉は「マロマロ・テュッティ」。「テュッティ」は音楽用語で「合奏、みんなで一緒に」を表す。
篠崎さんが欧州にいた頃、世界は東西冷戦下。ウィーンでは空港や繁華街でテロが起きていた。だが、室内楽や弦楽合奏では、さまざまなルーツの仲間と一緒に音楽を奏でた。「楽器の演奏は、自分を主張しながらも、相手を思いやること。一緒に演奏すると争いは起きない」。絵本には、音楽で絆を築いていくことの素晴らしさや、世界中で争いがなくなることへの願いを込めたという。
子どもの「なぜ」を育てる絵本の力
自らも、子どものころから絵本好き。両親や祖父母、近所の人たちから「桃太郎」や「長靴をはいた猫」などを読んでもらった思い出が残っているという。「絵本には子どもの『なぜ』を育てる力がある。大人は答えを教えるだけでなく、一緒に考える時間を大切にしてほしい」
篠崎さんは幼稚園のころ、猫の絵を描く中で、画用紙いっぱいに色を塗り、「猫が入りきらない」と言ったことがあったという。だが、先生は否定せず、描いた絵について話を聞いて、認めてくれた。これが「人格を形成する上で、大きな経験だった」という。正しい答えや解決法ばかりを求めず、自由に考える力を大事にしてほしいと願う。
絵本の最後には、子どもたちが知らない動物たちも登場する。そこには人種差別をなくすための願いを込めた。「外見やある地区へのイメージで差別ができあがる。大人がどう話すかで、子どもの印象が変わる。いかにポジティブに仲間として受け入れるか。親子で『何ができるだろうね』というふうに話してくれたらうれしい」
「おんがくはまほう」は、リトルモアから発行。1870円。絵は村尾亘さんが担当した。
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)
1963年、北九州市生まれ。1981年ウィーン市立音楽院に入学し、欧州を中心に活動。1988年に帰国後、群馬交響楽団、読売日本交響楽団を経て、1997年にNHK交響楽団のコンサートマスターに就任した。2023年からは特別コンサートマスター。
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