サッカー日本代表の専属シェフ直伝! 選手に人気No.1「代表ハンバーグ」の作り方

谷野哲郎

料理教室に参加した親子に教える西芳照さん

 暑さも和らぎ、ようやく過ごしやすい季節になってきました。外で体を動かして、「おなかがすいた~」と家に帰ってくるお子さんもいることでしょう。そんなとき、子どもと一緒に特別なハンバーグを作ってみてはいかがでしょうか? 今回はサッカー日本代表シェフとしてワールドカップ(W杯)5大会に帯同した西芳照(にし・よしてる)さん(62)の親子料理教室の様子をお伝えします。サッカー日本代表選手の間で人気ナンバーワンという「代表ハンバーグ」の作り方を教えてくれました。

W杯5大会で選手の食をサポート

 10月20日、福島県浪江町の「道の駅なみえ」で、親子を対象とした料理教室が開かれました。「部活で頑張る子供を食でサポートする」と題し、同駅総料理長・西芳照さんが講師となり、4組9人の親子に料理を教えたのです。

 西さんといえば、2004年からサッカー日本男子代表シェフになり、2006年ドイツ大会から22年カタール大会までW杯5大会にわたって、選手たちを食で支えた料理人。「今日は、代表選手みんなが大好きなハンバーグを作ります」。西さんの声に子どもたちが目を輝かせました。

材料を手に説明する西さん

 最初に材料を説明します。ホワイトボードにすらすらと書いたのは、「合いびき肉100グラム、玉ねぎみじん切り100グラム、牛乳10cc、パン粉5グラム、卵少々」

 「ひき肉は100グラム。牛肉だけでも構わないんですけど、体にいいのは豚肉なので、今回は合いびき肉を使います。豚肉のビタミンB1と玉ねぎを一緒に取ると、吸収もよくなって、スポーツをする体にはいい。100グラムに対して、玉ねぎは同量の100グラム。では、まず、みんなで玉ねぎを刻みましょう!」

玉ねぎにラップがついてる!?

 そういって、一人一人に玉ねぎを手渡していきます。すると、子どもの一人が「ラップがついてる!」。確認した西さんは「あ、それ、ラップじゃなくて、玉ねぎの薄皮ですね」。子どもの無邪気な会話に、教室中にほのぼのとした空気が漂いました。

  参加した5人の子どもは全員小学生で、料理をしたことのない子がほとんど。慣れない手つきで玉ねぎを切る姿に、親はハラハラ、ドキドキ。そのうち、一人が「目が痛ーい…」といって涙を浮かべます。玉ねぎを切ると目が痛くなる。そんな初めての体験に驚き、戸惑いつつも、子どもたちはしっかりと玉ねぎを切り終わりました。

玉ねぎを切って目に涙をためる子どもも

 「切った後はフライパンに入れて、炒めます。同時に付け合わせのトウモロコシとチンゲンサイをゆでていきましょうか。お湯が沸いたところに7分くらいで大丈夫。ちょっと塩を入れて」

 「それで、玉ねぎを炒めている間に、にんじんとジャガイモを乱切りにします。玉ねぎはあめ色になるのが理想ですけど、まあ、だいたいで大丈夫です」と西さん。

「お母さん、乱切りってどうやるの~」

「あめ色ってなあに~。どんな色~」

 子どもたちの元気な質問に親子の会話も弾みます。玉ねぎを炒めるいい匂いが室内に広がり始めました。

 「切り終わったジャガイモとにんじんは、オリーブオイルと塩こしょうして、蒸気の出るスチームコンベクション(オーブン)に入れます。200度で25分くらい」(西さん)

「包丁、気を付けてね」と声を掛ける西さん

三苫選手は体のためにパン粉なし

 そして、いよいよ、ハンバーグ。

 「では、ひき肉を混ぜていきます。卵は入れすぎると硬くなってしまうので、少しでいいです。お肉1キロに対して卵3個くらい。そして、パン粉。パン粉は、代表選手の三苫(みとま)薫さんとか、グルテンフリーというのをやっていて、『小麦粉を入れないでください』というので、パン粉入りとパン粉なしと2種類のハンバーグを作っていました。今は面倒なので、代表でパン粉は入れてないんです(笑)。まあ、入れるのであれば、ひとつまみくらいがいいですかね」

 そのとき、参加していたお父さんから質問が飛びました。

 「なんで、三苫選手はパン粉を入れないんですか?」

 「テニスのジョコビッチ選手が小麦を食べないグルテンフリーを実践して、優勝していましたよね。体に与える影響を考えてだそうです」

ハンバーグを手のひらで整える西さん。心がけているのは家庭の味

 四大大会で幾度も優勝し、レジェンドアスリートとして知られるノバク・ジョコビッチ選手が、小麦に含まれるグルテンを摂取しない食事を取るようになって、思考が明瞭になったり、体の切れがよくなったりした効果を口にしたのは有名な話。

 「三苫さんは、試合前の日は、グルテンフリーのそばを200グラム持ってきて、これ、半分は朝食に出してください。残りは試合前の軽食、普通はうどんなんですけど、そこで出してくださいって言ってました。吉田麻也さんとか、他にもグルテンフリーの人は多いです」

 代表選手のマル秘エピソードに親は皆、「へーっ!」と驚いていました。

お酒でおいしく、入れなくてもOK

 料理に戻ります。ひき肉に卵(少々)と牛乳(10cc)をボウルに入れたら、次は炒めた玉ねぎを入れて混ぜていきます。

 玉ねぎは全部入れないでくださいね。ソースに使いますので、少し残してください。ソースは通常、お酒としょうゆとみりんを同割(1:1:1)にして入れて煮込みます。これはハンバーグだけじゃなくて、ステーキソースにも使えます」

盛り付けは慎重に

 次は玉ねぎを混ぜたひき肉を手にとって、形を整えます。「どんな形でもOK。あまり厚すぎると火が通りにくいので、それだけ気をつけてください。空気を抜いても抜かなくてもどちらでも」。みんな丸形、俵形、思い思いの形ができあがっていきます。

 「フライパンに並べて火を付けたら、お酒でも水でもいいので、入れてふたをして蒸し焼きにします。お酒を使うとおいしくなりますが、どっちでもいいです。水とお酒を両方入れてもいい。多分、強火で5分か6分くらいで火が通ります」

 子どもから「えー、私、お酒、飲めないのに…」の声に、どっと笑い声が響きました。

選手はこの10倍をぺろっと食べます

 上手に焼けたら、あとは盛り付けて、先ほどのソースをかけるだけ。ゆでたトウモロコシとチンゲンサイを添えて、できあがりです。

親子で協力してつくった料理

 家族ごとにお皿を並べながら、また西さんから裏話がぽろり。

 「このハンバーグ、今日は1つ100グラムで作りましたが、代表ではいつも、この倍の大きさで作ります。それを一人3つか4つは食べますね。ラグビー選手になると、一人5個くらいをぺろり。この大きさだと10個は食べるんですよ」

 「お肉のタンパク質と、ハンバーグをおかずにご飯をたくさん取ることが大事。お米を食べて、90分走り抜くためのエネルギーとなるグリコーゲンをためる。だからスポーツ選手にとって食事は大切なんですね」

 最近ではラグビー日本代表に付いてフランスW杯に行ったり、サッカー日本女子代表のなでしこジャパンのシェフとして、パリ五輪に帯同した西さん。ためになる話に、親も子どももうなずいていました。

親子で一緒に作って食べるを大切に

 さあ、いざ、実食! 自分で作った料理に子どもたちも興味津々でハンバーグを口に運びます。

 「おいしい!」「最高!!」「軟らかい!!」

 西さんはその様子を満足そうに見ながら、今回の趣旨を説明しました。

「お味はどうですか?」と尋ねる西さんに、即答で「おいしい!」

 「今日は来ていただき、ありがとうございました。いろいろな日本代表の食事を見ていて思うのは、食べることをとても大切にしていることです。そういう意味では、小さいうちからなるべく、お母さんお父さんと一緒に料理をして、覚えてください。そういう記憶が将来、すごく役に立つと思います。よかったら、また参加してください」

「自分で作るとおいしいね」「えー、ママが作った方がおいしいよ」。会話も弾みます

 記事では駆け足の説明になりましたが、実際には西さんが手取り足取り、細かく指導や助言をしています。今後も西さんの料理教室は続く予定で、次回は12月21日(土)に行われます。興味のある方はぜひ、参加してみてください。

 茨城県牛久市からお父さん、お母さん、弟と一緒に参加したという小学3年生のお子さんは「初めての料理、おいしかった! ハンバーグ、パンパン(空気抜き)ってやったことなかったし、フライパンも初めてだった」と満足した様子で話していました。 

 子どもには色々な食材を

 西さんは福島県南相馬市の出身。これまで多くのアスリートの食事を担当してきましたが、今年の8月に「道の駅なみえ」の総料理長に就任しました。今はいろいろな代表の活動をしながら、月に何度か、施設内にあるフードコートの厨房に入るなどして、地元福島のために尽力しています。ちなみにこのフードコートでは今回の「代表ハンバーグ」や「代表カレー」を食べることができます。

スポーツ選手の食へのこだわりは

 最後に西さんに食とスポーツについて伺いました。

―子どもを持つ親は「うちの子、スポーツを頑張っているけど、何を食べさせたらいいの?」と悩んでいます。どんな食材や料理がいいのですか?

 「さっき話したように、豚肉はビタミンB1の疲労回復効果がありますよね。サッカーの日本代表はビュッフェスタイルで、必ずメインを2種類出すのですが、牛肉よりは豚肉を出す頻度は多いです。あとは鶏の胸肉は、低脂質高タンパクで、ここにも疲労回復物質が含まれています。そういうものを進んで提供しています」

―選手は食への意識が高いですか?

 「ええ。例えば、長友佑都選手なんかは、栄養学をすごく勉強していて、若い選手に教えていますね。豚肉のしょうが焼きと、野菜は緑黄色野菜がいいから、にんじん、かぼちゃを一緒に食べろとか。他にも緑黄色野菜を食べる選手は多いです。最近では、多くの選手がブロッコリーとトマトを食べる、そんな傾向もありますね」

―子どもにはこの食材!というようなお薦めはありますか?

 「うーん、子どものうちはそういうことよりも、いろいろな食材を食べた方がいいと思います。好き嫌いなく、いろいろなものを食べることが成長につながりますから。スポーツ選手でも、若い頃は、毎日ハンバーガーのような生活をしている人がいますが、いずれ体に故障を来すことを知る。大事なのは、自分で体に入れるものを学ぶことだと思います」

西さんがサッカー日本男子代表に提供する食事の例(2014年、中西祥子撮影)

試合の3日前から同じメニューを

―ちなみに、選手に必ず出すメニューってありますか?

 「試合の3日前から、体にエネルギーを蓄えるメニューを始めます。カタール大会では、試合の3日前は銀ダラの西京漬け、2日前はさっきのハンバーグ、前日はうなぎ。試合後はカレーをルーティンで出していました。筋肉と肝臓にグリコーゲンをためるために、炭水化物をたくさんとって、なるべく脂質を減らします。なので、3日前から揚げ物はもちろん、クリームはやめましょう、バターもやめましょうとなる。サラダはアマニオイルをかけたり、オリーブオイルと塩でみんな食べていますね」

―高級食材はないんですね。

 「フランス料理みたいなものを出しても皆、食べないんです(笑)。実はパリ五輪で鴨を出しましたが、人気がありませんでした。肉じゃがとか、みんな、小さい頃から食べ慣れているもの、いわゆる家庭の味が一番のようです」

 以前も少し触れましたが、筆者は西さんが試合後に作るという「代表カレー」を食べたことがあります。凝ったスパイスを使ったカレーではなく、高級な食材を使ったカレーでもなく、家庭で作るような優しい味のカレーだったことに驚きました。そういう意味では、栄養に、心の安定をトッピングするのが代表メニューの秘密かもしれません。

 西さんはこう話します。

 「子どもはプロのアスリートとは違うので、そこまで神経質にならなくても良いと思います。まずは好き嫌いせず、いろいろなものを食べること。それと、できるなら家族と一緒に食べること。食について会話をしながら食べる。それが健康な体を作っていくと思いますよ」

 食事で育むと書いて「食育」。体とともに、心も一緒に育てていくことが大切なようです。

「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。

コメント

  • ハンバーグをつくって美味しそうなものができました。私はこのたれに少しニンニクを入れてみました。小さめに作ってお弁当にも入れました!
    マリ --- 40代 
  • 3連休最終日に家族で代表ハンバーグ作りをしました♪ パン粉は少々、卵を入れすぎたけど、それも味になって◎。 息子(7歳)はパクパク2つ食べました。この記事ではそんなに強調されてないけど、実はこの
    tubaki 女性 30代