三笘選手が子どもに伝える、なりたい自分への方程式 (武器を持つ+分析する+積み重ねる)×挑戦=成長〈アディショナルタイム〉

谷野哲郎
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日本プロサッカー選手会へのビデオメッセージで話しかける三笘薫選手

コラム「アディショナルタイム」

 子どもたちの憧れの存在といえば、サッカー日本代表が挙げられます。ブライトンの三笘薫(みとま・かおる)選手(25)もその一人。昨年のワールドカップ(W杯)カタール大会で大活躍し、一躍、人気者になりました。そんな三笘選手が日本プロサッカー選手会を通じて、子どもたちに3つのアドバイスを贈ったことをご存じですか? 今回はその内容について、お届けしたいと思います。

JPFAアワードMVP 動画でメッセージ

 日本プロサッカー選手会(JPFA)は先月、「JPFAアワード」の2022年度受賞者を発表しました。「JPFAアワード」とは、今年度から新設された賞で、そのシーズン中、最も素晴らしかった選手をプレーヤー同士で選ぶ賞のこと。国内、海外問わずJPFAに所属する1654選手が投票を行った結果、三笘選手が最優秀選手に選ばれました。

 イングランド・プレミアリーグのブライトンに所属する三笘選手はビデオ動画を寄せ、「この賞に恥じぬよう、これからも精進していきたいです」と話すと、自身に憧れる子どもたちに対して、メッセージを送りました。

海外挑戦したい子へ 3つのアドバイス

 「海外挑戦したい子どもたちにアドバイスできることは3つあります」。三笘選手はこう話しかけました。

 「1つ目は、自分にしかない武器を持つことです。僕自身、ドリブルという武器でどんな場所にいっても自信を持って、相手に立ち向かうことができました。そういった自信を持つことが最後、自分を信じる力につながると思います」

 「2つ目は、自分を分析する力です。現在の自分のプレースタイルや特徴、将来なりたい姿、理想をイメージしながら、日々、どうやって練習していくかを考えていくことが大事になります」

 「そして最後は、毎日を大事にすることです。将来、なりたい自分になるために、毎日の小さな積み重ねしか、成長する方法はありません。将来の夢に向かって、今、努力できることを頑張ってください」

 要約すると、(1)自分だけの武器を持つ(2)自己分析でなりたい自分をイメージする(3)毎日の努力を積み重ねるーといった感じでしょうか。誠実な語り口に、子どもたちへの温かい思いが感じられました。

川崎時代のアンケートに見える「努力」

 三笘選手といえば、代表屈指のドリブルの名手。緩急自在に相手を抜き去る姿は、昨年のW杯でも記憶に新しいのではないでしょうか。しかし、三笘選手は急にうまくなったわけではありません。子どもの頃からの努力がW杯で実を結んだのです。

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W杯カタール大会のスペイン戦でドリブルする三笘選手

 興味深いアンケートを見つけました。三笘選手は小学生のとき、川崎市のさぎぬまSCでサッカーを始め、川崎フロンターレの下部組織、筑波大学と進み、2020年に川崎でプロ生活をスタートしました。そのフロンターレのHPには各選手に対するQ&Aコーナーがあり、三笘選手はこのように答えています(以下一部抜粋)。

・子どもの頃、一生懸命やったトレーニングは?

「止めて蹴る」

・サッカー選手になるために努力したことは? 

「向上心を持って練習すること」

・過去の自分にひと言

「時間を大切にしろ」

 どうです? 何となく、先ほどの3カ条に似ていませんか。三笘選手が子どもの頃からずっと、自分の武器を作るため、いろいろと考えながら、練習を積み重ねてきたことがうかがえます。

憲剛さんに通じる「止めて蹴る」の意味

 中でも「止めて蹴る」には、ハッとしました。味方からのパスを受ける際に、きちんとボールを足や胸で止める(トラップする)、ただそれだけのことですが、三笘選手の先輩・中村憲剛さんも推奨している練習法だったからです。

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2020年、J1優勝を果たし、中村憲剛さん(左)とシャーレを持つ三笘選手(右)

 中村選手は自身も実践していたとした上で、ブログでお子さんと「止めて蹴る」の大切さについて話したことを明かしています。

 「正確に1回でボールを止めることができれば、ボールの所在を確認する時間が減る分、顔が上がる」

 「顔が上がる時間が増えるということは、それだけ周りを見る時間が増える」

 派手さはありませんが、サッカーでは基本のプレー。結果を残すプロというのは、一流になっても、基本を大切にするのだとあらためて教えられました。

奥寺さんにも通じる「挑戦する」大切さ

 自分の力を試すため、欧州に移籍した三笘選手。彼の話を聞いて、思い出した人がいました。奥寺康彦さん(70)です。日本人で初めて欧州のプロリーグに挑戦したパイオニア。三笘選手が海外挑戦する40年以上も前にドイツのブンデスリーガでプレーした奥寺さんも、子どもたちに挑戦することを勧めていました。

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海外挑戦について語る奥寺康彦さん(左)。奥寺さんのブレーメン時代(右)

 「今、海外に行きたいとか、何かに挑戦したいとか、自分を試してみたいと思う子どもたちが全体的に減っている気がします。ほんのちょっと考え方を変えるだけなのに。もったいない」

 社会人チームの古河電工のスター選手だった奥寺さんが西ドイツ(現ドイツ)の1.FCケルンに移籍したのは、1977年のことでした。正確無比なプレーで「東洋のコンピューター」と呼ばれた奥寺さんはその後、ヘルタ・ベルリン、ブレーメンでプレーし、通算235試合、25得点と活躍。日本人が海外で通用することを証明したのです。

 先駆者としての功績が認められ、2014年にアジア・サッカー連盟(AFC)殿堂入りを果たした奥寺さんはこう話します。

 「最初は僕だって、不安でした。言葉も分からないし、嫌でしたよ。でも、行ってみたらそうでもなかった。確かに数カ月はきつかったけど、それさえ過ぎてしまえば、どうってことはない。あとは本当に楽しい。今の子どもたちには、『飛び込んでしまえば、楽しいことが待っているよ』と伝えたいですね」

 三笘選手と奥寺さん。2人の胸にあるのは、挑戦してみることの大切さ。失敗しようと成功しようと、小さな挑戦の積み重ねが、やがて自分自身の成長につながると教えています。

「三笘の1ミリ」自分を信じたからこそ

 今回のW杯ではそんな三笘選手を象徴するような出来事がありました。1次リーグ・スペイン戦。1ミリだけ残してボールを外に出さなかったプレーが話題になりましたね。「間に合わないかもしれないが、チャレンジしてみよう。自分を信じてやるだけやってみよう」。そんな三笘選手の心意気が、W杯で語り継がれるスーパープレーを生んだと筆者は思っています。

 日本プロサッカー選手会によると、今回のインタビュー動画の内容は、いくつかの質問の中から、三笘選手自身が選んで話したとのことでした。そう考えると、この3つのアドバイスは子どもたちに本気で伝えたかったことだということがわかります。

 自分なりの武器をつくること、なりたい自分をイメージしながら客観的に分析すること、毎日コツコツ積み重ねること。筆者には、これらの助言は、三笘選手が組み立ててきた成長するための方程式のように感じられてなりません。

 もし、お子さんが「サッカーをやりたい」と言ったとき、「三笘選手みたいになりたい」と言ったときには、どうか、今回のアドバイスを教えてあげてください。世界を舞台に活躍する選手からのメッセージは、きっと、心に響くはずです。

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W杯カタール大会中、報道陣に対応する日本代表・三笘選手

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。
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  • ムッタ says:

    息子は三笘選手の大ファン。あの三笘選手でも毎日の努力が大切と言ってることを今日帰ったら教えます。

    ムッタ 男性 30代
  • ほなみ says:

    先日のW杯を見て、長男(小2)が三笘選手のファンになりました(私もですけど=笑)。今回の3つのアドバイスは先月の発表のときにスポーツ紙の記事を見ましたが、ここまで詳しく全文載せてくれてなかったのでじっくり読むことが出来ました。うちの子には自分の武器とか、分析とかの言葉が難しいので、自分らしさとか、自分で考えるとか、私が簡単な言葉にして話してみようと思います。今、三笘選手に憧れている子は多いですよね。動画は帰宅したら、子供と一緒に見ます!

    ほなみ 女性 30代

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