渡辺雄太さんがNBAで学んだ”努力”の意味 子どもたちに伝えたい「うまくいかなくて当たり前。あと1日頑張ろう」〈アディショナルタイム〉

谷野哲郎
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子どもたちと一緒に練習する渡辺雄太選手=浅井慶撮影

コラム「アディショナルタイム」

 米プロバスケットボールNBAで活躍する渡辺雄太選手(28)が先月、都内で行われたバスケットボール教室にゲスト参加し、子どもたちと触れあいました。イベントには質疑応答のコーナーがあり、渡辺選手が子どもたちの悩みに返答。うまくいかないときの対処法や努力の大切さをアドバイスしました。まもなく始まるバスケのワールドカップ(W杯)。今回のアディショナルタイムは今、注目のNBAプレーヤーによる貴重なバスケ教室の模様を、子育ての視点から紹介したいと思います。

NBA主催バスケ教室 100人が参加

 NBA主催のこのバスケ教室は7月16日に東京・府中市にあるトヨタ府中スポーツセンターで行われました。「Jr.NBA Powered by B.LEAGUE Basketball clinic in JAPAN」と題し、バスケが大好きという13歳から15歳の男女100人が参加。約2時間にわたって、汗を流しました。

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積極的に子どもたちの輪に加わる渡辺選手=浅井慶撮影

 子どもたちのお目当てはもちろん、渡辺雄太選手です。基礎練習後に登場すると、大歓声と拍手でお出迎え。渡辺選手もそれに応えるように、笑顔で練習に合流すると、気さくに声をかけたり、パスやドリブルをしたり。途中、子どもたちの前でダンクシュートを決めるシーンもあり、会場を盛り上げていました。

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華麗にダンクシュートを決める渡辺選手=©NBA

シュートが苦手でも、焦らなくていい

 トレーニング後はお待ちかねの質疑応答タイム。憧れのNBA選手に直接質問できる千載一遇のチャンスとあって、子どもたちからはたくさんの質問が飛び交いました。

 最初の質問は、「シュートがうまく入りません。渡辺選手は普段、どんなシュート練習をしていますか?」でした。

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子どもたちからの質問に笑顔で答える渡辺選手(右)=©NBA

 渡辺選手はマイクを持つと、「とにかく反復練習で、試合で自分が使うようなシュートを毎日毎日、打ち続けています」と話し、「自分もみんなくらいの年は入らなくて、チーム練習や部活帰りの時間でとにかく長い時間練習して、それで最近、ようやく入るようになりました。この中にも『シュートは苦手だよ』って人がいると思うけど、全然焦らなくていい。これからどんどんうまくなっていくから。そういう時期だから。今、シュートが入らなくても、とにかく練習を続けて、自分はうまくなれるって信じてやっていってください」と、エールを送りました。

体を大きくするには、しっかり寝る

 続いての質問は、「体を大きくしたいのですが、渡辺選手は何を食べて大きくなったのですか?」。

 渡辺選手は「君はいくつ? 13歳? 自分も13歳のときはガリガリでしたよ(笑)。今もNBAの選手の中では細いけど、体を大きくするって、縦に? それとも横?」と逆質問。

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憧れの渡辺選手に緊張しながら質問する中学生=©NBA

 「背を伸ばしたい!」という子どもに、「だったら、いっぱい食べて、いっぱい寝てください。それをやらないと本当に(背は)伸びません。自分は中学のときにめちゃくちゃ、寝ていました。毎日、夜の9時くらいに寝て、朝練があったから、午前6時に起きなくちゃいけないけど、それでも9時から6時まで寝ていた。しっかり食べて、しっかり寝るというのが、成長のために一番必要なことだと思います」と、特に中学生年代には睡眠と食事が重要だと訴えました。

プロとは? デュラント選手を例に

 次の質問は「プロに行ける選手と行けない選手の違いって何ですか?」でした。

 渡辺選手は「それは単純で、努力できる選手とできない選手の違いです」ときっぱり。「NBAでも能力が高い選手、走るのが速いとか、高く跳べるとか、体が強いとか、そういう選手はたくさんいるけど、NBAにたどり着けないケースがたくさんあって。そういう選手の何ができていないかというと、やっぱり努力ができていないんです」

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日本代表のユニホームを着て、世界と戦う渡辺選手(中央)=2021年、代表撮影

 熱い言葉に、真剣に聞き入る子どもたち。渡辺選手は補足するように、「みんなケビン・デュラントって選手、わかるよね? 去年、同じチームにいたんだけど、もうめちゃくちゃ練習するんです。しかも、練習の濃さがすごい。一つ一つ、ドリブルでもシュートでもパスでも、めちゃくちゃ意識してやっている。十何年もNBAのトップに立ち続けている彼がそれくらいやっているので、自分もやらなきゃなってなる。パスが成功するかしないか、プロに行けるか行けないかの違いは、努力できるかできないかだと思います」と続けました。

「うまくいかない」は、成長の過程

 精神面の質問もありました。「うまくいかないときや自分の調子が悪いとき、どうやってモチベーションを保つのですか?」という質問が出たときのことです。

 渡辺選手は「まず、イメージが大事になってくるので、自分が活躍できていた時期を思い出して、そのときの映像とかを見たりします」と、技術的な対処法を伝授。その後、「自分はまだまだだと思っているので、うまくいかなくて当たり前と思っています。さっき、シュートがうまく入らないって言う子がいたけれど、うまくいかないことが多くて当たり前だと思います」と、静かに語りかけました。

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子どもたちの質問に答える渡辺選手=浅井慶撮影

 渡辺選手のアドバイスは続きます。

 「(うまくいかなくても)落ち込んだりする必要は全くないです。さっき話したように、自分は全然うまくない、こんなところ(NBA)に来られるような選手でもない。だから、うまくいかないことがあっても、今はまだ自分が成長していて、その壁だというふうに考えている。そう思ってやっていけば、落ち込むことはないだろうし、それがどんどん成長につながっていくと思いますよ」

 渡辺選手ほどの人が「うまくない」というのは驚きでしたが、「うまくないから、練習する」というシンプルな助言に、子どもたちは何度もうなずいていました。

上を目指せば、自信を失う時もある

 バスケ教室の後、報道陣に対応した渡辺選手は、子どもたちの成長について、さらなるヒントをくれました。「子どもたちが将来、NBAプレーヤーになるために最も大切なことは?」という質問に対し、渡辺選手は一語一語しっかり考えながら、答えてくれました。

 「ぶれないことだと思います。プロを目指す上ではいろいろな壁に当たると思うので。上を目指せば目指すほど、そこを目指している同士で争わなくてはいけない。そういうときはすごく自信がなくなる時期も出てくるんです。そのとき、いかに自分自身をぶれさせずに、自分のやってきたことをやりつづけられるかということが大事だと思います」

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子どもたちの質問に答える渡辺選手=浅井慶撮影

 その上で、「そうはいってもまだ子どもなので、周りの大人が背中を押してあげるとか、その子に対してサポートしてあげるとかが必要ですよね。子どもたちだけではなかなかやりきれない部分があるので」と、親や指導者の協力が欠かせないとの考えを明かしました。

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親や指導者のサポートは大事=©NBA

 渡辺選手自身が親から大きなサポートを受けて育ったといいます。渡辺選手は両親がどちらも元バスケ選手。そのため、子どものころは放課後、父・英幸さんと一緒に自主練習するのが日課だったそうです。

 この日も、「練習するコートがなかったから、小学校でドリブルの練習をして、校庭をぐるぐる走って、最後にお父さんと電柱のシュートをやっていました」と、家の近所の電柱をゴールに見立てて、親子でトレーニングを積んだ思い出を懐かしそうに話していました。

「何かしらのご褒美が返ってくる」

 渡辺選手がこの日、子どもたちに一番伝えたかったことは何でしょうか。発言を見直してみると、「努力」というキーワードを何度も使っています。使い古された言葉かもしれませんが、渡辺選手が言うと、少し違って聞こえるから不思議です。

 「努力は、自分の目標や夢をかなえるために絶対に欠かせないものだと思っています。さっきも言いましたが、NBAで生き残る選手は努力している。そうでない選手は、環境に対して言い訳したりすることが多い。5年間、NBAの中を見てきて、そこが勉強をさせてもらった部分。今後も継続して、努力していきたいですね」

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子どもたちと一緒にコートに立つ渡辺選手=浅井慶撮影

 心に残った言葉がありました。

 「努力って、継続すれば、何かしらの形で自分にご褒美が返ってくるなって思うんですよ。アメリカに行って、そう思うし、人生の節目、節目でそういうことがありました。自分もあきらめそうになったことがあるし、もうやめようかなと思ったこともあったんですけど、とりあえず、『もう1日頑張ろう』『もう1日頑張ろう』って続けたら、結果として残るようになってきた。全ての努力が報われるとは思わないけど、何かしらのご褒美が返ってくると思います。自分はそう思っています」

 「努力」という言葉の意味を、自分自身で考えてみる―。この日、渡辺選手が与えたヒントに、子どもたちがどう答えていくのか、これからが楽しみです。

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参加した子どもたち100人との記念写真に納まる渡辺選手=©NBA

渡辺雄太(わたなべ・ゆうた)

 1994年生まれ、香川県出身。尽誠学園高校卒業後、アメリカに留学。ジョージ・ワシントン大学でプレー。卒業後、2018年にNBAグリズリーズとツーウェー契約を結び、田臥勇太以来、日本人選手2人目のNBAプレーヤーになる。2021年にラプターズと本契約。その後、ネッツに移籍。NBA5シーズンは日本人最長。今年7月にサンズと契約。身長206センチ、97キロ。ポジションはフォワード。

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。

 

 連載「アディショナルタイム」の過去記事はこちらから読めます。

 

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  • あぶさん says:

    この子供たちの中から、将来、W杯やNBAで活躍する人が出てきて、渡辺選手の思いがつながったらとてもいいことだと思う

    あぶさん 男性
  • ミリー says:

    何かしらのご褒美が帰ってくるって、本当だった🙂 全試合スタメンで、守備も献身的にやってた渡辺選手に感動しました。まさに努力のご褒美だと思います🎊 来年も楽しみにしてます❗

    ミリー 女性 20代
  • おんちゃん says:

    ベネズエラ戦で見せた3ポイントはすごかったです。ここに書いてあるように、すごく練習したから、あの3ポイントが入ったんだと思います。大事なところで力を出せるように努力するのが渡辺選手の考えだとわかりました。

    おんちゃん 男性
  • カナエ says:

    今回のワールドカップで見せた渡邉選手のあきらめない心は、20年後に伝説になってると思う。世界ランク3位相手に一歩も引かなかった。子供達も見てたはず。残り試合も努力の意味をプレーで見せてもらいたい。応援してます💪

    カナエ 女性
  • 匿名 says:

    中学でバスケを教えています。渡辺選手が言っていることは本当に正しくて、成長期の子供は、しっかり食べてしっかり寝て、体を作る、そして反復練習をする。この3つで大丈夫です。小学生も同じですので、参考にできるはずです。

     男性
  • 雄太ファン says:

    一児の父です。このイベントはスポーツ紙で短く紹介されてたけど、渡辺選手が何を言ったのか、詳しく載ってなくて、知りたいと思ったので、よかったです。最近、努力って言葉を使う人があんまりいないけど、渡辺選手が言うと「そうなんだ」って子供たちが出てくると思う。うちのチビ(4歳)も努力する人になってもらいたいな。あと、渡辺選手、W杯の活躍を期待してます!

    雄太ファン 男性 30代
  • くまきち says:

    渡邉雄太選手は高校卒業後に単身アメリカの大学に行きものすごい努力をしてNBAに入った選手なので、子供たちにとってすごくいい経験になったと思う。この教室から将来のNBAプレーヤーが出てくるといいな。

    くまきち 男性 30代

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