コロナ下で子どもの「つらい」サインを見逃さないために 大人ができることは

上野実輝彦 (2021年5月5日付 東京新聞朝刊)

 新型コロナウイルスに気をつけながらの生活が1年以上になった子どもたち。いやな気持ちやストレスを感じながらも、多くの人が楽しみを探したり、やりたいことを見つけたりしています。コロナがなかなか収まらない中、前向きに暮らすにはどうしたらいいのか。国立成育医療研究センターの研究員半谷(はんがい)まゆみさんと考えました。

半谷まゆみさん

落ち込んだ気持ちを引きずる人も

 半谷さんはこれまでに5回、小学生から高校生の子どもたちと、高校生以下の子の親にアンケートをし、コロナが子どもに与える影響を調べてきました。

 東京新聞のアンケートでは、コロナでいやな気持ちになったことが「よくある」「時々ある」と答えた人が、どの学年でも50~70%いました。その原因は、旅行や外出がしにくくなったことや、学校行事が中止になったことなどが目立ちました。半谷さんの調査でも同じような結果だったそうです。

 しかし、コロナの中でも、家族と話す時間が増えたとか、家で楽しく過ごせる工夫を考えるようになったとか、良かったことを書く人も多くいました。検定を受けるなど新しい目標を持った人もいて、半谷さんは「いろいろな発見ができたことは良かった」と話しています。

 ただ、半谷さんには心配もあるそうです。コロナのつらさに負けずに希望を持てる人もいますが、そのように考えられず、落ち込んだ気持ちを引きずる人もいるからです。半谷さんは「そんなときは前向きな気持ちを持てるよう、周りの大人が助けてあげてほしい」と言います。

気晴らしできる「逃げ場」を作って

 大人にとっても、コロナはとても大変なことです。半谷さんによると、保護者や学校の先生自身が疲れ切って、子どもを支えられなくなってしまうこともあるそうです。大人と子どもの両方にとって、つらい状態になってしまいます。

 どうすれば、これからの暮らしをより良くできるのでしょう。まずは子どもも大人も、気持ちを安らかにすることが大事です。

 子どもは必ずしも、大人に「つらい」と直接言うとは限りません。半谷さんは「イライラしたり集中力がなくなるなど、子どもが発するメッセージを注意深く見てほしい」とアドバイスします。部活や習い事など気晴らしができる時間が減ってしまったら、それに代わる「逃げ場」を作ってあげることも大切です。

 大人を支える仕組みも必要。役所がお金や生活を手助けするのに加えて、大人が自分もつらい気持ちだと気づけるような取り組みが大事だと、半谷さんは言います。自分の状態が分かれば、周りの人たちに優しく接する気持ちも生まれるからです。

上手につきあうための情報を共有

 その上で半谷さんは、コロナと上手につきあうための情報をいろいろな人が教え合うことで、より良い状態が作れると考えます。例えば、ある学校が感染予防のために行った方法が、専門家から見たらやりすぎで、子どもを必要以上に疲れさせていた場合もあるそうです。

 コロナの中では行うのが難しい学校行事でも、先生やPTAが工夫して続けた例もあるし、家族や友だちと新しい遊びを考えた人もいます。

 何に気を付けて、どう実行すればよいのかという情報が共有できれば、アイデアが広がり、子どもたちの「今年やりたいこと」も実現できるかもしれません。

半谷まゆみ(はんがい・まゆみ) 

小児科医。2010年東大医学部卒。同付属病院などで働いた後、2017年から国立成育医療研究センター研究員。新型コロナで緊急事態宣言が初めて出された20年4月、同僚らと「コロナ×こども本部」をつくり、アンケートを通じてコロナの子どもへの影響を調べた。調査は2021年3月までに5回行い、成育医療研究センターのホームページで公表している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年5月5日