世界の子どもたちに「将来の夢」「大人へのひと言」聞いてみました

(2019年1月7日付 東京新聞夕刊)

子どもの権利条約30周年

 今年は子どもの権利条約が国連で採択されて30年。子どもが自分の考えを表明し、尊重される権利も条約の柱の一つだ。年の初め、世界の子どもたちの「夢」と「大人へのひと言」に耳を傾けてみよう。

バンコク パサポーンさん「画家になる」

 バンコクのパサポーンさん(12)は「将来はジットラゴーン(タイ語で画家)になりたいな」。絵を描くことが大好き。お気に入りは日本のアニメキャラクターだ。車の運転手の父に「私たちのために一生懸命働いてくれて、とても感謝しています。『ありがとう』と言いたい」。ただ、帰宅が遅くなる日もあり「もう少し早く帰ってほしい。休日も増やしてくれたらいいな」と体を気遣う。

北京 劉閲陽さん「人を助けるエンジニア」

 「人を助けるエンジニア」と将来を描くのは、北京郊外に住む劉閲陽(りゅうえつよう)さん(11)。災害地でも紛争地でも飛んでいって、困っている人を助ける「箱型ドローン」をつくりたい。不満は不公平な学校の先生に。「同僚の子をひいきして、芸術やスポーツの賞を取らせる先生が嫌」。格差が少しでもなくなるよう、貧しい新疆ウイグル自治区に本や衣服を贈る活動にも積極的に参加している。

カイロ ヤーラ・ハリファさん「ジャーナリストとサッカー選手」

 カイロに住むヤーラ・ハリファさん(12)は「ジャーナリストとサッカー選手」と夢を掲げた。サッカーは「仲間とパスをしながら協力してゴールを決めるのが好き」。でも、保守的なイスラム社会のエジプトで女子サッカーへの偏見は根強く、「女なのに」と言われるのが許せない。だから、より目指したいのはジャーナリストだ。「男性にできることは女性にもできると言いたい」

米バージニア州 アシュリー・さくら・コールさん「外科医」

 バージニア州のアシュリー・さくら・コールさん(14)は父が米国人で、母が日本人。途上国の支援や貧富の格差に関心があり「貧しい国の人々にもっと手を差し伸べられるような世界に」と大人たちに訴える。夢は外科医。「遠隔医療が発達すれば、貧しい国々で感染症などに苦しむ人たちにとっても医療が身近になる。多くの人の病を治して、世界中から頼られるような医者になりたい」

ベルリン プリーマー兄弟 兄「宇宙飛行士」弟「恐竜学者」

 ベルリンに住む仲良し兄弟の兄エーミル・プリーマーさん(10)=写真(右)=がなりたいのは宇宙飛行士。12月に地球に帰還したドイツ人宇宙飛行士のように「宇宙でいろんな実験をしたい」と夢を語る。恐竜学者になりたい弟アントンさん(8つ)は「化石を発掘するのがおもしろそうだから」。父は物理学者、母はNGO職員で共働き。「パパとママがもっと休みが取れるといいな」が二人の願いだ。

子どもの権利条約

 1989年11月の国連総会で採択、90年発効。差別の禁止、子どもの最善の利益、生存・発達の権利、子どもの意見の尊重-の4つを基本原則に、18歳未満の子どもを大人に守られるだけでなく、権利を持つ主体と位置づけている。196カ国・地域が批准や加入をしており、日本は94年に批准した。

 (バンコク支局・山上隆之、中国総局・安藤淳、カイロ支局・奥田哲平、アメリカ総局・後藤孝好、ベルリン支局・近藤晶が担当しました)

「困難の中で生きる子ども、今も」ユニセフ・アジア親善大使 アグネス・チャンさんに聞く

 この30年、子どもを巡る環境は改善された半面、新たな課題も生まれている。困難の中で生きる世界の子どもたちを毎年訪ねている国連児童基金(ユニセフ)アジア親善大使で歌手のアグネス・チャンさんに聞いた。(聞き手・小嶋麻友美)

 -ユニセフ大使になって20年、子どもたちの状況はどう変わりましたか。

 「5歳前に亡くなる子どもは半減しました。多くの子が学校に行けるようになり、予防接種も進んだ。多くの点で改善されたが、30年前には見えなかった問題も見えています。深刻なのが地球温暖化。アフリカのサハラ以南などは干ばつが進み、食べていけなくなっている。過激派が台頭し、内戦状態となって、犠牲になるのは子どもたち。気候変動は未来の問題ではなく今の問題なんです」

 「紛争や食料不足による大規模な移動も起きています。子どもたちは国境を越えた途端、『難民』『不法移民』となって人権を奪われる。何の罪も選択肢もないのに、皮膚の色で殺されたり差別されたり。少し状況がよくなったのが、今逆戻りしている感じです」

 -自国第一主義が世界で子どもを追いやっている。

 「歴史の中で今、世界の力関係が再編成され、混乱していると思う。そんな時、人間はやっぱり不安で、排他主義になりますよね」

 「でも、子どもたちにとって今はチャンスでもあると思います。どこの国の子も、パソコンとWi-Fiがあれば可能性が広がる。しっかり生きて教育を受ければ、子どもたちが新しい時代をつくってくれます。だからユニセフは先を見据えて動いていかないと。夢を与えて『大丈夫』『チャンスはいっぱいあるよ』って伝えたい」

 「児童婚の問題は残っている。女性が教育を受ける機会もまだ少ない。100万人の子どもが売買され、20万人の児童兵がいる。昨年はウクライナ東部を訪れましたが、子どもたちが銃弾が飛び交う前線にいるんです。隠れている問題、新しい問題もたくさんある。人権が侵されているのなら、声のない彼らに代わって声を大きくすることが私たちの役目です」

 -子どもの権利条約採択から30年。日本の人や世界にどう呼び掛けますか。

 「まず実情を知ってもらうことが一番重要です。知ればいつか行動になるし、みんなの気持ちが一つの方向を向けば、世の中が変わる。ユニセフに寄せられる民間の募金額は、日本は十数年の間、1位か2位です。企業ではなく個人の寄付が多いのも日本の特徴。メッセージは伝わっていると思う。子どものことにはみんな関心を持つんです」

 「条約に加入している国には、30年でどこまで進んだのか、どこが足りないのか、あらためてチェックして、新しい展望を打ち立ててほしいと思います」

アグネス・チャン

 1955年、香港生まれ。上智大、カナダのトロント大を卒業後、米スタンフォード大大学院で教育学博士号を取得。98年に日本ユニセフ協会大使、2016年にはユニセフ・アジア親善大使に任命され、計23カ国で危機にさらされる子どもたちの元を訪れ、世界に発信している。