医療的ケア児と歩む㊤ 家族の負担、昼夜問わず
人工呼吸器を直し、たんを吸引
午前3時。スースーという規則的な音が乱れると、アラームが鳴る前に、本紙読者の福満美穂子さん(45)=東京都中野区=は跳び起き、長女華子(かこ)さん(14)の様子を確認する。華子さんは寝入ると自発呼吸がじゅうぶんにできず、人工呼吸器が長時間外れていると命に関わる。呼吸器を直し、たんの吸引をする。母子家庭のため、夜にケアをするのは福満さん一人。熟睡できる日はほぼない。
華子さんは生後すぐ、原因不明の症状で脳に酸素がいかなくなり、脳性まひになった。難治性のてんかんもあり、3歳で胃ろうを、12歳で気管切開の手術をした。寝たきりで、目が見えず、知的障害もある。栄養剤などの注入は日に6回、投薬は4回、薬の吸入は朝晩あり、たんの吸引は多いと数分に1回必要だ。
抱え込み、社会と隔絶してしまう
「最初は私が産んだからという罪悪感や自責の念が強く、かかり切りだった」。入院生活はこれまでに30回以上。福満さんと同じように家族で重い負担を抱え込み、社会から隔絶している人は少なくない。
日中も息を抜けない。ヘルパーや訪問医、看護師、学校の先生、医療機器の点検業者ら、多い日は10人ほどが入れ替わり、華子さんのケアなどのため訪れる。その対応や手続き、日程調整は全て福満さんだ。
ケアの担い手を増やしてほしい
ヘルパーといっても、たんの吸引や呼吸器を付けたままで着替えなどができる、熟練したヘルパーは少ない。福満さんは事業所3社に登録し、何とかやりくりする。「子どものうちから任せられる、医療的ケアの担い手を増やしてほしい」
この日は、特別支援学校の都立永福学園(杉並区)の下田恵子教諭(52)による訪問授業。中学2年の華子さんは学校に通えないため、週3回、1回2時間の授業を自宅で受ける。下田教諭が清少納言「枕草子」を題材にした絵本「春はあけぼの」を読み、「これが雪の『つめたい』ですね」と保冷剤に触れさせると、華子さんは目を開き、驚いたように手を引っ込めた。「学校の先生やヘルパーさんなど親以外の人と関わり、華子も意思表示できるようになってきた」。福満さんが実感を込める。
医療的ケア児
日常生活で人工呼吸器や胃ろうなどからの栄養注入、たんの吸引といったケアが必要な子ども。厚生労働省によると、2015年度時点で1万7000人余と推計され、うち在宅で人工呼吸器を使う未成年は約3000人と10年で10倍に増加。医療的ケアがあっても、知能や運動能力は変わらない子もいる。16年に障害者総合支援法と児童福祉法が改正され、自治体の支援の努力義務が規定された。