児童養護施設から巣立つ18歳を支えたい 元職員が千葉にシェアハウス開設、自立に”伴走”

森川清志 (2019年10月7日付 東京新聞朝刊)
 親から虐待を受けるなどして児童養護施設で育った子どもたちは、18歳で施設を出て自立を求められる。社会で困難に直面し、孤立感を深めても、そばに頼れる人はいない。そんな若者たちをどう支援するべきか。手探りでの取り組みが始まっている。

シェアハウスの台所で談笑する菊池真梨香さん(右)と渡辺睦美さん=千葉県市川市で

一度は大学をあきらめ、就職したけれど… 

 「クッキー食べる?」「それめっちゃおいしいよ」

 9月の昼下がり、千葉県市川市にある一軒家の台所で、菊池真梨香さん(32)と渡辺睦美さん(23)がのんびりと雑談に花を咲かせた。この家は、施設を出た子らを支援しようと菊池さんが昨年9月に開設した女性向けのシェアハウスだ。菊池さんも住み込み、安い家賃で部屋を提供している。

 渡辺さんは虐待を受けて18歳まで東京都内の施設で過ごした。高校3年の時、大学に行きたかったが、お金がなく、アルバイトとの両立も難しいと思い旅行会社に就職した。でも夢をあきらめきれず、学費をためるため家賃が安い菊池さんのシェアハウスを頼った。

 施設を出て一人暮らしをしていた時は、つらいことがあっても話を聞いてくれる人がそばにいないので「よく一人で泣いていた」という。いまは菊池さんが気にかけてくれるので「うれしい」と笑顔をみせた。

施設出身だから、と夢をあきらめないで

 菊池さんは都内の児童養護施設で働いていた時、施設を出た子が大学の授業とアルバイトを両立できなかったり、就職先でトラブルになったりする様子を見聞きして胸が痛んだ。生い立ちや境遇を理解して接する人がいない環境を何とかしたいと思った。

 「まだまだ難しい年ごろなのに親の後ろ盾はなく、相談できる人や頼れる人もいなくて社会で孤立する子が少なくない」と、2017年に支援団体「Masterpiece」を設立。今年1月には男性向けの部屋も千葉市で提供を始めた。

 「行き先のない子やセカンドチャンスをつかみたい子を受け入れていきたい。若者たちが施設出身だからといって夢をあきらめなくていい社会をつくりたい」と菊池さんは話している。寄付や寄贈の申し込みはメール=masterpiecejp2017@gmail.com=かMasterpieceのサイトまで。
    

厚生労働省で会見し、寄付を呼び掛ける首都圏若者サポートネットワークの運営委員ら

“伴走者”の活動を支援する「若者おうえん基金」設立

 児童養護施設や里親家庭を出た若者だけでなく、菊池さんのような「伴走者」の活動も支援する動きが民間で始まっている。

 2017年に設立された首都圏若者サポートネットワークは昨年、「若者おうえん基金」を創設した。生協や労組などが寄付金集めに協力し、今年2月、伴走者活動を行っている9団体に初めて計1000万円余を助成した。菊池さんの団体も92万円の助成を受け、シェアハウスの立ち上げなどに充てることができた。

 ネットワーク運営委員長の宮本みち子放送大名誉教授は、基金の狙いについて「親代わりになる伴走者と社会に出ていく若者をペアで応援し、若者の安定した巣立ちを見守る。『この人なら分かってくれる』という人が一人でもいることがとても大切」と指摘。

 ネットワーク顧問で元厚生労働次官の村木厚子さんは「(具体的にどういう支援が必要なのかの)事例づくりがやっとスタートしたというのが現状。ケースをたくさんつくってもらい、政策の形で政府に提案していきたい」と話す。

 基金への寄付などは首都圏若者サポートネットワークのサイトで受け付けている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年10月7日