「大磯は第二のふるさと」福島の子どもを癒やす夏休み 原発事故から10年、有志が続ける保養プログラム

吉岡潤 (2021年1月10日付 東京新聞朝刊)

2013年夏、大磯町の照ケ崎海岸で遊ぶ子どもたち(西湘の会提供)

遊べない子どもたち 何とかしたくて

 「会いたいです」「また大磯に来てくださいね」。昨年12月中旬、神奈川県大磯町立図書館の一室。「福島の子どもたちとともに・西湘の会」の会員が集まり、福島に贈るクリスマスカード書きに精を出した。この時期恒例の作業で、筆を丹念に走らせた。

 同会は2012年6月、大磯町や近隣市のカトリック信徒や住民の有志が設立した。代表の大石恵子さん(78)は「福島の子どもたちが家に閉じこもって遊べないというのを聞いて何とかしたいと思った」と語る。

親子を招待 甲状腺検査も受けられる

 東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を気にすることなく、子どもに走り回ってほしいと、大磯町での保養プログラムを企画。福島県南相馬市の市民団体などを通じて参加者を募り、会員が福島県内の保育園や幼稚園を回った。

 翌7月末、5家族14人が大磯にやって来た。5泊6日。カトリック大磯教会を宿舎に、手作りの料理をふるまい、大磯ロングビーチへ連れて行った。参加者に「おばあちゃんの家に来たみたい」と言われた。「みんな日焼けして真っ赤っかになって楽しんでくれて」と大石さん。以来、毎年、福島から親子を迎え入れて親交を深めてきた。

 同会のプログラムの特徴は甲状腺検査が組み込まれている点だ。「子どもたちの健康を守りたい」と医療機関の協力を得て、毎回、希望者に実施する。夏休み以外でも検査を望む声があれば交通費を援助する。

まだやるの? いや何も終わってない

 昨夏は元々、東京五輪開催のため保養を予定せず、五輪が延期になった後に案内を出した。新型コロナウイルスの影響で申し込みはなく、静かな夏になった。

 今は活動の見通しが立ちにくい状況だが、大石さんの意気はむしろ盛ん。「まだやっているのと言われるけど、何も終わっていない。つながり続けていることで、私たちが勉強させてもらっている」。会員からも「福島で起きたことは自分たちの問題」と声が上がる。

寄付サポーターは100人以上

 カトリック大磯教会の庭には太陽光パネルを並べた「発電所」がある。大磯町に住む会員で、南相馬市出身の岡部幸江さん(58)が理事長を務める住民組織が2015年1月に開設。売電収入の一部を保養企画に寄付している。「福島のことを忘れない、子どもたちを支えたいという気持ちは変わらない」と語る。

福島に贈るクリスマスカードを手にする大石さん(前列左)ら=大磯町で

 寄付してくれるサポーターは100人以上。「子どもたちのためなら」とチャリティーコンサートを開いてくれた音楽家もいる。いろいろな手が伸びてくる。大石さんは「誰かがやれば一緒に考えてくれる人がいる」と実感している。

 あの日から10年の3月に向け、保養に参加した家族と会員の思いをつづった文集を編む計画を進めている。 

参加者の声「忘れないでいてくれる」

◇第1回から娘2人と参加している福島市の女性(50)

 子どもたちが伸び伸びして、人のつながりが感じられて大磯は第二のふるさとになった。検査も充実していて安心できる。毎年、夏に充電して1年過ごす感じで、福島にいても大磯からエールをもらっている。

◇2015年から娘と息子と参加している福島市の女性(47)

 子どもたちは人との出会いで世界の広がりを体験できた。福島は孤立した感じがあったが、仲間として受け入れてくれて、自己肯定感が高まった。忘れないでいてくれるという信頼感がある。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年1月10日