ヘアドネーションを受けた子どもの気持ち、考えたことありますか なぜウイッグが必要?「着けても着けなくてもいい社会」へ
「友達の前で、いきなり髪があるのも…」
東京都葛飾区の高校1年、佐野心咲(みさき)さん(15)の髪の毛が急に抜け始めたのは、小学校生活が終わろうとする頃だった。「シャンプーで手ぐしを入れるとごっそり。なんでこんなふうになっちゃったんだろうとお風呂で泣くこともあった」。汎発(はんぱつ)性脱毛症という原因不明の病気で、医師から「完治は難しい」と言われた。数カ月のうちに、まつげや眉毛など全身の毛が抜けた。
まばらな頭髪にヘアバンドをしたが、ウイッグには抵抗があった。「髪の毛がない状態で出会った中学の友達の前で、いきなり髪があるのもなんか嫌だった」。だが、母親の智子さんから「あの子どうしたのかなと心配されることもあるよ」などと言われ、着けてみようと思い始めた。
偏見と理解 葛藤した後の「ありがとう」
寄付された髪のウイッグを無償提供するNPO法人「JHD&C(ジャーダック)」(大阪市)に申し込んだ。約2カ月後に届いたウイッグを着けると電車の中などで視線を感じなくなった。「でも夏は蒸れて暑いし、運動すると取れないか心配。陸上部ではウイッグではなく帽子でした」
智子さんも周囲から「厳しくしすぎてるんじゃない? ストレスでは?」などと言われ苦しんだ。病気について説明し、「見守ってほしい」と話すと理解者が増えた。「髪があってもなくても心咲ちゃん、と。見た目への偏見はすぐにはなくならない。でも身近な人たちから丁寧に伝えることが大事なんだと思った」
心咲さんは現在、症状が落ち着き、ウイッグは使っていない。脱毛当事者らの思いをまとめた本「31cm」(クラシップ)では体験談のほか、写真モデルとしても登場している。31cmは、ウイッグ製作に最低限必要な髪の長さだ。「病気を経験した自分を好きになって、ウイッグもおしゃれとして楽しみたい。寄付してくれた人たちに『ありがとう』という気持ちです」
支援者が語るヘアドネの功罪 ウイッグが必要なのは、社会に「見た目への無自覚な差別」があるからです
◇ジャーダック代表 渡辺貴一さんの話
ヘアドネ活動を始めて12年。500個余りのウイッグを提供しながら、その功罪を考え続けてきました。ウイッグを着けることで表に出てこない問題もたくさんあるのではないか、と。ウイッグで前向きになれる子もいますが、ヘアドネの話を見聞きすることさえしんどいという子もいる。髪の毛の問題は本当に重いです。
ウイッグの申し込みの8~9割は保護者から。変な目で見られないようにと子どもを気遣ってのことです。一方、子どもが「私って恥ずかしい存在なの?」と思ってしまうことも。ウイッグが必要なのは、見た目に対する無自覚の差別が社会にあるからです。
「31cm」の中で、元国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター長の野澤桂子さんはジャーダックの活動について、ウイッグ提供数は少ないものの、髪を失った子どもたちの存在を世に伝えた意義は大きいと話してくれています。
髪の寄付者の半分は10代です。それぞれの子どもがなぜウイッグを必要とするのかも一緒に考え続けたい。そして最終的にはウイッグを着けても着けなくてもいい社会になれば、と願っています。
↑ヘアドネーションの長さの基準となっている「31cm」の実寸大で制作された限定版ブックを紹介する、クラシップのYouTube動画
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