マルトリとは? 虐待ほどではない「子どもへの不適切な言動」が脳を傷つける ガイドブックで防止しよう
マルトリは、子育てに悩む養育者のSOS
「マルトリ」は習慣的に暴力を振るうといった虐待よりも広い概念。声を荒らげて怒鳴る、子どもが見聞きできる場で夫婦で暴言を吐き合う、きょうだいや他の子と比べるなども含む。エスカレートすると深刻な虐待に結びつく懸念がある上、将来にわたって心や体の健康を損なう可能性を、福井大の友田明美教授らが研究で明らかにしている。
一方で、友田さんは「マルトリは、ストレスや子育てへの悩みを抱える養育者のSOS」と言う。「社会全体で子育てを助ける『とも育て』を進めることが必要」と強調する。
そうした知識を子育て支援に関わる自治体職員に広めようと、福井大は大阪府の豊中市、枚方市などとともに「マルトリに対応する支援者のためのガイドブック」(32ページ)を作成。昨年11月から、マルトリ予防ウェブサイト「防ごう!まるとり マルトリートメント」で無料公開している。サイトを管理する日本家族計画協会によると、これまでに自治体や医療機関、学校などから700件超のダウンロード申請があった。また、横浜市は市内18区の福祉保健センターなどに配り、相談に応じる際は留意するよう促している。
宿題しない、ゲームやめない…対応は?
ガイドブックでは、マルトリが続くとストレスで脳が傷ついたり、感情のコントロールが苦手になったりすることなどを、変形した脳の磁気共鳴画像装置(MRI)画像を示して説明。その上で、子への接し方を具体的に助言するよう求めている。母親の妊娠期から、子が高校生以上になるまでの発達段階に応じた対応方法は、親自身が読んでも役立つ内容だ。
例えば、1歳ごろの「かんしゃく・大声を上げる」などの悩みには「○○がしたいのね」と代弁し、気持ちが伝わっていると安心させる。新しい環境で過ごし始めた小学校低学年の「宿題をしない」という声には「やり方が分からない子もいる」として、最初は一緒に付き合う、「ゲームをやめない」中学年には、家族でルールを決めて居間などに張り、本人に宣言させる-という具合だ。
自制心をつかさどる脳の前頭前野は、25歳ごろまでゆっくりと発達する。欲求や感情が先立つのは普通のこと。ガイドブックでは、こうしたことを分かっていれば、マルトリをしかねない親のイライラは和らぐと説く。友田さんの元には、児童福祉の若い担当者から「脳についてきちんと説明することで、早期に対処できている」という声が届いているという。
親もストレスで脳が活動低下し悪循環
養育者へのアドバイスとして、ガイドブックでは他にも「子どもを叱るときは60秒以内で」「(怒鳴りそうになったら)決めておいた回避場所で10数えて深呼吸する」といったヒントを紹介。夫婦げんかを見聞きさせないよう、「メールなどを使ってやりとりを」とも提案している。
友田さんは「親が育児ストレスを抱えると前頭前野の活動が低下し、子の気持ちが読み取りづらくなることも研究で分かっている」と指摘。それがさらなるストレスに結びつく悪循環を防ぐためにも、困ったときは助けを求め、周囲は知識を活用して手を差し伸べるよう呼び掛ける。
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