児童相談所の業務をAIで効率化 支援や判断の質向上も目指す 「AiCAN」CEOの高岡昂太さん

志村彰太 (2022年5月30日付 東京新聞朝刊)
 増加を続ける児童虐待に対応する児童相談所(児相)は、多忙を極める。しかし、引き継ぎや判断のわずかなミスが重大な結果を招くこともある。「AiCAN(アイキャン)」CEOの高岡昂太さんは、人工知能(AI)技術とICTを使い、児相の業務効率を改善しながら、一時保護や指導を巡る判断の質を向上させるサービス「AiCAN」を展開する。

虐待対応の事例をデータ化、助言システムを構築

 「年齢を基準に判断する文化は良くない」と、年齢は非公表。埼玉県出身で、1997年に神戸市須磨区で「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」を名乗る少年が小学生を相次いで殺傷した事件と、凶行の背景に家庭環境があるなどと分析する報道を見て犯罪心理学に興味を抱き、「安全な世の中に貢献したい」と考えるようになった。

 大学では臨床心理学を専攻。大阪大(修士)と東京大(博士)の大学院では、SOSを出したくても出せない家庭への効果的なアプローチを研究し、児相や市区町村の児童福祉部門に聞き取りを重ねた。2011年に東大院を修了後、千葉大子どものこころの発達教育研究センター特任助教を経て、2013~2017年に客員研究員としてカナダのブリティッシュコロンビア大に留学した。

 「重大な児童虐待が起こるたびに、『情報の見過ごし』『関係機関の連携不足』と指摘される。同じミスを繰り返すとすれば、AIで防げないか」。同大工学部と連携して、虐待対応の事例をデータ化し「被害児童にどのように接するべきか」「何を聞いてはいけないか」などを助言するシステムを構築。同国のコンテストで2部門受賞した。

三重県が利用 自治体に「お試し利用」を呼びかけ

 2017年からは産業技術総合研究所(産総研)に所属し、2019年から実証実験。本格展開のために2020年3月にサービスと同名の会社を設立し、今年4月に最高経営責任者(CEO)になった。会社は当初、都内にあったが、「行政とつながりがある」「ベンチャー企業へのサポートがある」などを理由に「かながわサイエンスパーク」(川崎市高津区)内に移転。民間企業として事業活動と社会貢献の両立を目指し、全国、海外展開を狙う。

 システムは、虐待通告を受けて家庭を訪問した児相職員が必要事項を入力すると、支援に向けた判断を助けるリスク評価を行う。虐待対応の改善に本腰を入れていた三重県が既に利用。「判断の際に役立った」などの声が寄せられ、業務の効率化と迅速な支援を実現できていると高評価を得ているという。

 ただ、全国的に見れば、「データを活用している児相はほとんどない」。支援方針の決定はデータに基づかず、児相職員のノウハウによるところが大きく、支援の質にばらつきがある。自治体には「お試し利用」を勧めるとともに、「まずは、データ活用の重要性と有効性を訴えていきたい」と話した。

AiCANの概要

児童虐待の膨大な対応事例を蓄積し、分析用人工知能(AI)を備える。支援のために出向いた家庭の状況や被害児童の状態をタブレット端末で入力すると、一時保護の必要性、再発リスク、重大性、類似事例などが表示される。日常の業務記録の作成と兼用できるため、書類の作成が不要になるなど大幅な業務効率の改善が望めるという。児童を取り巻く環境の違いなどを考慮して、運用する地域ごとに異なるシステムを開発する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年5月30日