障害児のキッズモデル事業を始めた母親の思い 自閉症のわが子に向き合い「障害を理解してもらうきっかけを」
チョークの広告写真 多様性を訴える
雨傘に、ピンクや紫のカラフルな雨粒が降り注いでいた。千葉県鴨川市にある一軒家の窓ガラス。華ひらくに所属するなぎさちゃん(6つ)とすみれちゃん(7つ)の2人は窓の外の雨を見て、チョークで思い思いに絵を描いた。
日本理化学工業(川崎市)が開発した、つるつるした面に使え、簡単に拭き取れるチョーク「キットパス」。その広告写真の撮影現場で、同社商品企画部の雫(しずく)緑さん(42)は「誰にでも、多くの人に使ってほしい商品。多様性を訴えるメッセージにぴったり」と手応えを語る。
軽度の知的障害と自閉症と診断されるなぎさちゃんの初仕事を見守った父親(34)=千葉県習志野市=は「娘は絵が大好きで、普段通りの姿が出た。こんなに楽しんで撮影できるなんて。来て良かった」と喜ぶ。
長男と暮らす日々をYouTubeで発信
2010年に設立した華ひらくに所属する障害児モデルは、現在、0歳から10歳までの約20人。当初は主に英会話のレッスン事業を展開していたが、2歳になった内木さんの長男尊(たける)ちゃん(8つ)が重度の知的障害と自閉症と診断された。どんなふうに育つのか、不安と恐怖に襲われた。内木さんは「障害について何も知らなかった。無知だったから、障害者に対して偏見もあった」と振り返る。
インターネットで調べ関連本を読みあさった。知識を身に付けるたび、不安が徐々に和らいだ。そんな経験から「まずは知的障害について知ってもらわないと」と思い立ち、長男と暮らす日々の動画を、YouTubeで発信し始めた。
わが子を芸能人にしたいわけではない
「大半の人は、障害者に触れる機会がないから、どう接すればいいのか分からないだけ。見てもらう機会を増やそう」。たどり着いたのがモデル事業だった。
「障害児だからと、つくられたポーズをするのではなく、そこにいるありのままの姿を、より多くの人に知ってほしい」と内木さん。シナリオ、演出に沿うには難しさがあるため写真の仕事に限定し、企業側から「障害児モデルと分からないのではないか」と懸念されることもあるが、障害の種類などを写真に付記してもらうようにしている。
内木さんは言う。「モデルの親たちは決してわが子を芸能人にさせたいわけではない。障害を一度公表すれば、二度と削除できないかもしれない。それでもモデル登録を決めるのは、障害を知り、理解してもらうきっかけをつくりたいからなんです」