子どもの手術や検査前の心を支える「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」とは? 国内に49人のみ、普及に課題
お医者さんごっこ、絵本やおしゃべりで
「ただの遊びに見えても、制限のある生活の中で『やりきった!』と達成感が得られる大切な時間なんです」。センターのCLS第1号として2012年4月から勤務する天野さんは、抗がん剤治療に使うカテーテルを付けた人形を手に話す。
人形は、お医者さんごっこをして遊ぶ中で医療行為への理解を促す「メディカルプレイ」に使われる。子どもが満足いくまで一緒に遊び、手術を泣いて恐れる子には絵本で説明したり、一緒におしゃべりしながら検査に耐えたり。医療体験をする子どもに寄り添うのがCLSの仕事だ。
「どんな子でも、医療行為を受けなければいけないことは理解している。それでも怖い」と天野さん。一緒に話し合い、これならできるという「がんばりプラン」を見つける。また、入院する子に親が付ききりになり、不安を抱えるきょうだい児の支援や、死亡退院した子の家族の心のケアなど役割は多岐にわたる。
国内の教育機関なし 診療報酬の対象外
より一層心を配るのは、虐待を受けて救急搬送されてきた子どもたち。遊びを通しても満足感が得られにくく、遊びを終えようとすると、泣きわめくこともある。「明日も必ず来る」と説明し、看護師に交代してもらってその場を離れるが、天野さんは「どこまで支援ができるのか毎回考えさせられる」と難しさを明かす。
CLSは北米発祥で、米国に本部を置く団体「Association of Child Life Professionals(ACLP)」が資格認定する。心理学や家族学など専門性を習得するため、ACLPが定めたカリキュラムの履修や臨床経験が必要となる。
ただ、現状では国内に対応している大学や大学院がなく、資格取得のハードルは高い。さらに国内では診療報酬の対象ではないため、病院独自の予算で採用していることも普及の足かせとなっているという。
受診する子ども多く、2人体制で対応
同センターの病床数は316床で、8割ほど埋まることもある。外来を受診する子は一日平均500人前後。CLSは天野さんら2人体制で、看護師や保護者からの依頼を受けて出向くが、日によっては優先順位の高い子から対応せざるを得ないこともある。
天野さんは日本の「チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会」の副会長も務めている。医療チーム内でのCLSの役割の確立や社会での認知度の向上などに取り組んでおり、「いつか国内で学べて資格も取れるようになり、教壇に立って次の世代のCLSをつくっていきたい」と語る。