子どもが期待通りに育たなくても、親は温かく接することができる 映画「僕らの世界が交わるまで」ジェシー・アイゼンバーグ監督の思い

映画「僕らの世界が交わるまで」 © 2022 SAVING THE WORLD LLC. All Rights Reserved.

 「こんなはずじゃなかったのに…」。わが子への期待と現実のギャップに、胸の内でそう感じている保護者は少なくないのでは。1月19日公開の映画「僕らの世界が交わるまで」に登場する「意識高い系」母親はまさにそれで、ネット配信での成功を夢見る息子とぶつかり、失敗し、そこから学んでゆく姿を名優ジュリアン・ムーアが演じる。映画「ソーシャル・ネットワーク」のマーク・ザッカーバーグ役で知られるジェシー・アイゼンバーグ=写真=の監督デビュー作で、脚本も手がけた。

意識高い系の母親 配信に夢中な息子

 DV被害者のシェルターを運営するエヴリン(ムーア)は困っている人を助けるのが生きがい。高校生の息子ジギー(フィン・ウォルフハード)は母親の仕事にも社会問題にも関心がなく、音楽のネット配信でフォロワー数を増やすことで頭がいっぱい。そんな中、ジギーは社会運動に熱心な同級生に夢中になり、エヴリンはシェルターで暮らす男子高校生の支援に熱が入り過ぎて…。

 アイゼンバーグ監督が物語を考えた出発点は、DV被害者のシェルターを運営していた義母の存在だという。献身的な姿に「正義感や倫理観の強い人が、悲劇的なほどにそういうことに興味がない子どもと組み合わさったらどうなるだろう」とのアイデアが浮かんだ。

 ジギーの造形は「知的でリベラルな親の子が反抗したらどうなるか。たぶん資本主義的ですごく薄っぺらくなるのではないか」と想像を膨らませた。「息子の視点から見れば、母親が自分に無関心で、より苦しんでいる人にばかり目を向けていたら何が起こっていくかを描いてみよう、と」

「ミスマッチ親子」が向き合っていく

 価値観が違いすぎてかみ合わない〝ミスマッチ親子〟な2人だが「それぞれDV被害者支援と音楽に対して、野心的なところがよく似ている」。社会的に認められた活動をするエヴリンに対し、ジギーは「ちょっとおろかしい感じ」だが、物語が進むにつれ、自分を取り囲む世界を理解しようと一生懸命な姿がいじらしくみえてくる。

 「彼はお母さんによく似た女の人に恋をしてしまう。つまり、お母さんが愛してくれるような自分の側面を探そうとしていることが、映画の中盤くらいで分かってくると思う」。けんかばかりの母子が実はそっくりなことは、体ばかり大きくて家族にまったく関心を示さないもう一人の家族、父親の存在によってより際立つ。

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 自分の正しさばかりを信じていたエヴリンも、手痛い失敗をへて、独善さを捨ててジギーと向き合おうと思い始める。「ジギーを生み出したのは自分で、自分がネグレクトしていたせいではないか、と。自分が期待した形と違う風に育っても親として温かく接することができることに気づいていく」

 一つ屋根の下、家族だから付き合っていくしかない。相手の価値を探して認めよう―。作品に込めたメッセージに「こう言うだけで泣きそうになってしまうんだ」と結んだ。

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