結愛ちゃんの命を救う機会、3度あったのに…目黒女児虐待死 都が検証報告書

榊原智康 (2018年11月15日付 東京新聞朝刊)
 東京都目黒区で3月、両親から虐待されていた船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5つ)=が死亡した事件で、専門家による都の部会は14日、検証報告書をまとめた。結愛ちゃんが死亡する1カ月前に、都の児童相談所が虐待と判断しながら、すぐに会わなかった点などを問題視。都は、対応すべき機会が3回あったとの見解を示した。 

七夕の会でスイカを食べる船戸結愛ちゃん=2016年7月(提供写真)

自宅訪問、小学校説明会…緊急度を見直さず

 報告書によると、都の品川児相は1月30日、結愛ちゃんが都内に転居する前に暮らしていた香川県の児相から概要の連絡を受け、虐待として受理した。厚生労働省の指針では、受理から原則48時間以内に児童の安全確認を求めているが、品川児相は「けが自体は軽微」などの情報から、緊急性に乏しいと判断。結愛ちゃんへの接触より、保護者との関係づくりを優先し、深刻さをつかめなかった。

 2月9日に初めて自宅を訪問したが、母親が結愛ちゃんとの面会を拒否して会えず、5分程度で退いた。その後は訪問せず、安全確認の方策も検討しなかった。目黒区子ども家庭支援センターも同20日、小学校説明会で結愛ちゃんを確認できなかったのに、緊急度を見直さなかった。結愛ちゃんは3月2日に死亡した。

児相は「チェックシート」作っていなかった

 児相を管轄する都家庭支援課は「組織として危機感が低かった面はある」と説明。緊急度を見直さず、安全確認を優先しなかった理由を「継続的な支援が必要なケースだと(香川県側から)伝えられた。その見立てにとらわれたことが最後まで響いた」と釈明した。

 また、品川児相が緊急度を評価するためのチェックシートを作っていなかったことが判明。シートは厚労省が「虐待対応の手引」で作成を求めている。香川県側にけがの写真を送るよう要求せず、情報確認が不足していたことも指摘した。

 転居前後の経緯は香川県と合同で検証した。香川県も近く、検証報告書をまとめる予定。

安全確認「48時間ルール」なぜ徹底されなかった?

 虐待の通告や受理から原則48時間以内に安全を確認する-。この全国的なルールは厚労省が2007年に指針で定めた。それから11年たつが、都は受理から1カ月にわたり結愛ちゃんとの接触を優先せず、幼い命を守ることはできなかった。

 結愛ちゃんの事件を受け、都は10月から、48時間以内に安全確認ができない場合は緊急会議を開き、原則として立ち入り調査をする独自ルールの運用を始めた。

 一方で、22ページの報告書には、ルールを重視しなかった背景への言及はない。組織の風通しが悪かったのか、リーダーシップが欠けていたのか、職員が不足していたのか、理由は不明。新たなルールで対応が改善するのか疑念は残る。

 「指針などにのっとった手続きや対応が迅速で丁寧に行われていれば、亡くなることはなかったと感じている」と、報告書をまとめた部会長の大竹智・立正大教授(子ども家庭福祉学)。一方で「背景にまで十分ヒアリング調査できなかったかもしれない。足りないところは国の方で、全体を通した中で検証していただければ」と説明した。