災害時の食物アレルギー対策 「子どもに食べさせる物がない」や誤食を防ぐため、平時に備えておくことは?

藤原啓嗣 (2024年5月16日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 食物アレルギーがある子どもやその保護者にとって、大規模災害時に安全な食事を確保することは大きな課題になる。能登半島地震の被災地でも「食べさせられる物がない」と嘆く保護者の声を聞いた。専門家は「正確な診断を含め、平常時に備えておくことが大切」と語る。 

災害時は食料も必要な情報も得にくい

 「米ばかり食べさせていた」。卵アレルギーがある長男(1)を育てている石川県珠洲市の20代の女性は、被災直後を振り返る。避難所に届く支援物資のパンは原材料に卵が使われていたため、与えるのをためらったという。

 複数の食物アレルギーがある小学3年の男児(8)を育てる愛知県内の女性(43)も「命に直結する課題だけど、避難時にわがままだと捉えられないか。周囲の理解を得られるか不安」と思いを明かす。

 厚生労働科学研究班の調査によると、食物アレルギーは乳児の7.6~10%、3歳児の約5%にある。鶏卵、牛乳、小麦など原因となる食物を口にすると、皮膚に赤みや腫れが出る。重症になるとアナフィラキシーを起こし、死に至ることもある。

 大規模災害時は多くの人が混乱し、食料ばかりでなく必要な情報も得づらい。食物アレルギーがある子がいる保護者は、平常時から備えておくと、有事の際、心の余裕が持てる。

正確な診断を受け、選択肢を増やそう

 日本小児アレルギー学会の災害対応委員長で、熊本大病院の医師緒方美佳さんは、2016年に起きた熊本地震で食物アレルギーの子どもを支援した。

 「症状が出ても医療機関を受診しにくい状況のため、普段より厳しい基準の除去食を望む保護者が多かった」と緒方さん。「だが、みんなが混乱している中、アレルギー対応食は必ずしも全員に届かなかった」と語る。

 食物アレルギーは従来、血液検査のみで診断されているケースが多いという。本来なら、疑わしい食品を食べて検査する食物経口負荷試験や問診により、除去する食材は最小限にとどめることが望ましい。緒方さんは「食事の選択肢を増やすため、まずは正確な診断を受けよう」と呼びかける。

 ただ、この試験を受けられる医療機関は全国的にも限られており、数カ月待ちの場合もある。かかりつけ医に相談するか、日本アレルギー学会や食物アレルギー研究会のWebサイトで検索して早めの予約を心がけるといい。

 日本アレルギー学会などが設けたWebサイト「アレルギーポータル」といった信頼できる情報源を事前に調べておく。そこには、災害時の対応やアレルギー疾患の情報、専門の医療機関がまとめられている。さらに、緒方さんは「3日分の食料と緊急時の薬剤も用意しておこう」と付け加える。

「アレルギーあり」遠慮せず知らせて

 被災したら、支援物資や炊き出しの食材に注意する。食べる前に、まず原材料のアレルギー表示を確認。ベストや名札を自分で用意し、遠慮せずに子どもに食物アレルギーがあることを周囲に知らせ、誤食を防ぐことも大切だ。

 炊き出しでは、アレルギーの原因となる卵や牛乳、小麦を除去していると表示していることもある。ただ、複数人が大量に調理するため、微量の混入は避けられないと考えた方が無難だという。

 万が一、アナフィラキシーの症状が出た場合には、本人の自己注射薬エピペンがあれば速やかに打つ。その後に、なるべく早く医療機関を受診するように努める。

 国の防災基本計画は、避難所での食物アレルギーに関するニーズの把握と、対応した食料の確保を市区町村に求めている。例えば、名古屋市は小麦などアレルギー原因となる28品目を除去したアルファ化米を備蓄するが、自治体によって差はある。

 緒方さんは「正確な診断も含め、平時にどれだけ備えられるかが鍵」と指摘。今後、「医師や栄養士、自治体で協力して、アレルギー対応食が手に入る場所をSNS(交流サイト)で発信できるような仕組みを構築したい」と話す。