〈考える広場〉子連れ出勤、ダメですか? 議論の背景にあるものは
参院議員 伊藤孝恵さん 「『男女の価値観を変える動きへの違和感』があるのでは」
参院選のとき3歳と1歳だった長女と次女は、4歳と2歳になりました。当選後しばらくして家族で東京に引っ越してきましたが、衆院議員会館(東京都千代田区)地下にある都の認証保育所を含め、周辺の保育施設はどこもいっぱい。上の子は少し離れた保育園に、年度の途中で入れましたが、2歳児は今も待機児童です。
家族やベビーシッターに頼って日々回していますが、都合がつかない日は、参院議員会館の議員事務所に連れてくるしかない。やむを得ずの子連れ出勤です。執務室に、子どもが遊べるスペースを作りました。ときには、党の会議にも連れていきます。
以前は毎日のように議員会館に連れてきました。中には「うるさい」という方もいる。税金でまかなわれている施設なので、「公私混同だ」という指摘もありました。「子どもがちょろちょろしていて議員の仕事ができると思うな」「子どもがかわいそう」といった批判も。
参院議員会館の地下に空室があるので「あそこに保育施設を造りませんか」と提案しましたが、進まなかった。今は、家や公園、児童館で見てもらうようにして、連れてくるのは週1回に減らしました。
子連れ出勤が良いとか悪いとか、そういうことじゃないと思うんです。私の祖母は農家、母親は食堂で働いていて、私も普通に働く場所に入れてもらっていた。不謹慎と言われたり、邪険にされたりした記憶はありません。いつの間にか働く場所が分けられ、お父さんが仕事に行き、お母さんが家にいるという価値観が根づいた。
だけど女性の役割も地位も変わり、今は従来の価値観を変える過渡期。もしかしたら子連れ出勤そのものより、この国の男女の価値観を変える動きに、違和感を感じたりする場合もあるのかなと思っています。
女性議員を増やしたい。でも、今の環境のままでは親友には「一緒にやろう」とはとても言えません。子どもの居場所の問題は長く言われ続けていることなのに、手を打ってこなかった。政治の責任は大きいです。
口では問題だと言っておきながら、何も動かなかったら、50年後も状況は変わらない。たとえ我田引水と言われようと、当事者としてここが足りないと言い続けることが大事だと思っています。
いとう・たかえ
1975年、愛知県生まれ。テレビ大阪、リクルート社などを経て、2016年参院選愛知選挙区で初当選し、現在1期目。民進党青年局副局長。
ワークスアプリケーションズ代表取締役CEO 牧野正幸さん 「会社の生産性を向上させる、健全な投資です」
子育て中の社員も、他の社員と同じようにキャリアを積んで働き続けるようにしたい。そういう思いで昨年12月に社内託児スペース「WithKids」を設けました。優秀な人材が働き続けられる環境の整備を目的として設置した自社運営の認可外保育施設で、政府が2016年度に創設した企業主導型保育事業の支援を受けています。
既存の保育施設のように、保育時間に制限があると、プロフェッショナルとしての裁量を十分に発揮できないという課題がありました。そうした課題を解消した上で、社員が心から利用したいと思える保育所にしたかったのです。
託児スペースの企画は子どもの有無や男女にかかわらず、有志が仕切り、理想の施設を実現しました。預かり時間は午前8時から午後8時半まで。当日申し込みによる一時保育にも対応可能です。着替えやおむつは持参不要。社員は常時立ち寄ることができ、保護者は昼食や夕食を子どもと一緒に取ることができます。村全体で子育てしていた江戸時代や多世代家族だった昭和のように家族ぐるみで子育てをするイメージです。
子連れ出勤なので、託児施設への送迎に別途、時間を取られることがない。当社はフレックスタイム制ゆえ、満員電車も避けられます。帰宅後、保育所で使った洋服を洗濯したり、食事を準備したりする必要もなく、家事負担が軽くなっています。
保育士などのスタッフも社員として採用しており、待遇も同じ。当社は、優秀な人材には能力に見合う高い報酬を支払っていますが、保育士も同様です。優秀な保育士を集めるには高い報酬を支払うべきです。
政府からの補助は認可保育園並みで、会社からの持ち出しは一定額ありますが、それ以上の付加価値を生み出しています。社員の会社へのロイヤルティー(忠誠心)やモチベーションも上がりました。託児スペースができて約10人が1年以内の早期復職をかなえました。同じパフォーマンスが出せる人を一から採用・育成することを考えると、優秀な人材の早期復帰を促し、会社の生産性向上に貢献する健全な投資だと考えています。
社内を歩く子どもの声に癒やされます。経営者としても、社員だけではなく「この子たちにも責任を持たなくては」という気持ちになりました。
まきの・まさゆき
1963年、兵庫県生まれ。大手建設会社などを経て、96年にワークスアプリケーションズを創業。「働きがいのある会社」ランキングで、10年連続「ベストカンパニー賞」を受賞。
作家 雨宮処凛さん 「分断の材料や『女性の問題』にしてはいけない」
格差が広がり、女性の生き方も多様化する中で、他人と比較して不満や欠乏の気持ちを抱く「相対的剥奪感」が高まっているように感じます。「子連れ出勤なんて恵まれている」と、新たな分断を生んでいる。
30、40代のワーキングプア(働く貧困層)の人と話していると、「子どもがいる人は特権階級ですから」という声を聞きます。子育てはお金がかかるので、「自分たちとは階層が違う」と。子持ちが、ある種のステータスになっているのです。
企業では、多くの人が人間の営みを無視した働き方を強いられています。だから子育てや介護、闘病などで100パーセントの生産性を発揮できない人に「なぜルールを破るのか」「企業の営利活動に迷惑をかけるな」と感じてしまいがち。女性も大半が結婚し出産する時代ではないので、「大変だね」とか「これから経験するかも」という共感や前提が生まれにくい。それぞれの複雑な思いが、批判や反発につながるのではないでしょうか。
子連れ出勤と聞くと、「アグネス論争」(1980年代後半、タレントのアグネス・チャンさんが職場に子どもを連れてきて議論になった)を思い浮かべる人もいるでしょう。男性の「おんな子どもは職場に入ってくるな」という考えが、今より強かったのではと想像します。
今、子連れ出勤が議論になる背景には、子どもが保育所に入れない待機児童問題があり、女性の働きづらさ、生きづらさの問題がある。一度仕事を辞めると、女性はキャリアが絶たれてしまう現状もあります。結局、国の制度の不備の問題。分断の材料や、「女性の問題」にしてはいけないと強く思います。
知り合いに、介護離職から一時期、ホームレスになった50代の男性がいます。大手企業の正社員を辞め、両親の介護をしながらのアルバイト生活で、親をみとったら手元に1万円ほどしかなく、賃貸の家を失った。彼は、どこでボタンを掛け違えたのか。会社が短時間勤務などを提示していたら、そうはならなかったかもしれません。
制度が過渡期の今は、緊急時だけでも子どもを連れていける隙間が職場にあれば、救われる人は多いはず。「子連れ出勤はダメ」という社会の不寛容さに声を上げ続けることが、政治的解決を促し、皆にプラスになると思います。
あまみや・かりん
1975年、北海道生まれ。2000年作家デビュー。貧困や雇用、生きづらさの問題に取り組み『女子と貧困』など著書多数。「反貧困ネットワーク」世話人。
熊本市議の乳児同伴
11月22日の市議会本会議開会前に、緒方夕佳市議(42)が、生後7カ月の長男と議場に着席。市議会規則で議員以外の入場が認められていないため、赤ちゃんは傍聴席の友人に預けられた。本会議開会は約40分遅れた。 緒方さんは、本紙のインタビューに「私の姿を社会に見せて訴えようと思った。(長男との同伴が認められず)壁は高かったが、国内外から賛否の声が数多く届き、関心は高かった」と話している。
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