教員に残業代が出ないのはおかしい! 先生を目指す学生たちが訴訟を支援 長時間労働を解決したい
「子どものために朝から夜まで」に違和感 先生が健康でなければ
「教育の当事者というと、全ての人が当てはまる。社会の根幹をつくる教育の当事者として、教員の長時間労働をどう解決していくか、考える必要がある」。昨年11月20日、東京学芸大4年の石原悠太さん(24)=埼玉県蕨市=は、4人の学生による支援事務局設立への思いをこう表現した。さいたま地裁で行われた、第10回口頭弁論後のオンライン会見でのことだ。
石原さんが教員の働き方に関心を持ったのは、3年次の授業。外部講師の中学校教員が「朝から夜まで学校にいて、子どものために頑張っている」などと教職の魅力を語った。「子どものためというなら、先生が健康でいることが大前提では」と違和感を覚えたという。
在校・残業時間を記録するアプリ開発 クラウドファンディングも
SNSで調べると、長時間労働で心身を病む教員が多いと知った。教員側の意識の問題と考えていたが「残業代が発生せず、働く時間を把握する必要がないような仕組みが問題」と気付いた。今年3月に仲間と設立したIT系の会社「EduCrew」では、教員がスマートフォンで在校、残業時間を記録するアプリ「Wormat」を開発した。4月からは休学し、会社を軌道に乗せるべく奮闘している。
事務局メンバーの一人、佐野良介さん(23)=さいたま市=は4月から東京大大学院に通う。小、中学校の教員免許を持つが、進学を選んだ。転機は埼玉大2年の時。教育学を学び、教材研究に充てる時間や教育予算の少なさを知った。勉強会を開き、今回の裁判の傍聴に行った縁で、大学に原告の男性教員を招いた講演会も開いた。「教員が子どもにかける時間や教員が学び続ける時間もないことは、子どもの学習権をおろそかにしている」と話す。
事務局では、フェイスブックに特設ページをつくり、情報発信。ネット署名や、活動資金を募るクラウドファンディングも行っている。原告の男性教員は「今の不条理を次世代に引き継いではいけないと思って裁判に踏み切った。次世代の若い人たちが賛同してくれたことは思わぬ成果だ」と語った。
裁判の経緯
埼玉県の公立小に勤める男性教員(62)が、時間外勤務に手当が支払われないのは違法として、県に未払い賃金約240万円の支払いを求め、2018年9月、さいたま地裁に提訴した。県は時間外勤務手当を支払う義務はないとして争っている。原告側は「国が『自主的な活動』としている教員の時間外勤務が、労働基準法上の『労働』に当たる」と主張。被告側は「校長が文書や口頭で時間外勤務を命じたことはない」と関与を否定。21日の口頭弁論で結審する。
日本の公立小中校の教員は世界的にも働きすぎ、なのに時間外勤務の手当がない 法制度と実態にズレ
日本の公立小中学校の教員の労働時間は世界的にも長い。経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査で、日本の教員の週当たりの仕事時間は、小学校で54.4時間、中学校で56.0時間。ともに48の参加国・地域で最長だった。
ところが公立学校の教員はどれだけ働いても時間外勤務手当が支給されない。原則、時間外勤務を命じないと定めた教職員給与特別措置法(給特法)があるからだ。ただ、給特法は本給に一律4%の上乗せをする代わりに、学校行事や職員会議などの「超勤4項目」と呼ぶ業務に限って時間外勤務を認めている。原告男性は「時間外労働の9割は4項目以外の通常業務。授業準備やテストの採点などが多い」と法制度と実態とのずれを指摘する。
埼玉大の高橋哲准教授(教育法学)は「給特法があっても、勤務時間外に行った通常業務が労働基準法32条違反に当たるかどうかを問う初めての裁判」と意義を強調。32条は1日8時間、週40時間を超えた労働を禁じている。「違法状態と判断されれば、学校にかけるべき追加の教育予算を国に求める裁判となる。一人でも多くの人に関心を寄せてほしい」
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