虐待通告後の安全確認を民間委託 相談件数の多い埼玉県の児童相談所3カ所 深刻事案に注力するため
「泣き声」「大きな音」低リスクの通告
全国の児童相談所は国の指針に基づき、虐待通告の受理後、原則48時間以内に安全確認することが求められている。埼玉県の委託を受けているのは、NPO法人ワーカーズコープ埼玉事業本部(さいたま市南区)。2019年以降、相談対応件数が特に多い川越児相や所沢児相、川口市の南児相の安全確認を引き受けている。
もともと子育て支援などに取り組んでおり、スタッフは1カ月間、児相の職員に随行して研修を受けた。現在は7人態勢で月-土曜の午前11時~午後9時に対応。「泣き声が聞こえる」「大きな音がした」などの通告で、児相が「虐待の可能性が低い」と判断した家庭を原則2人で訪問する。保護者に頼れる人がいるかなどを聴き取り、必要に応じて相談先を紹介したり、内容によっては児相に引き継ぐこともある。
ワーカーズコープ埼玉事業本部によると、訪問先では10代のシングルマザーが疲れ切った様子で涙を流すことがあった。別のケースでは保護者の話に2時間ほど耳を傾けたこともあるという。こうした家庭との接触は、何らかの異変を感じた人からの通告がきっかけとはいえ、スタッフは「子育てに悩む人が誰かとつながろうとしてくれれば一番」と話す。今月からは、さいたま市が設置する2つの児相の安全確認業務の委託も受けている。
厚労省「行政だけでは限界がきている」
職員1人当たりの相談対応件数が120件と、全国有数に多い所沢児相の永井徹郎副所長は「訪問するのに片道1時間かかる家庭や、1度の訪問で会えない場合もあった。(委託で)空いた時間に、より深刻なケースに注力できるようになった」と話す。児相の職員が訪ねると虐待を疑われてショックを受ける人もいるが、委託後にトラブルは特にきていないといい、永井副所長は「当たりの柔らかいスタッフが訪問してくれるので安心して話せるのでは」と手応えを感じている。
厚生労働省の2020年の調査では、児相を設置する全国72の自治体のうち7割が何らかの業務を外部委託しているが、安全確認は6カ所にとどまった。個人情報の扱いや対応の難しさもあり、業務を担える団体が少ないためとみられるが、厚労省の担当者は「児相の業務負担がかなり膨大で、子どもたちに身近な民間団体があれば協力を仰がないと、行政だけでは限界がきている」と話す。
2017年に委託状況を調査した明星大学常勤教授の川松亮さんは「特に地方では対応できる民間団体を見つけるのが難しい」と指摘しつつ、「個人情報保護についての協定を結んだ上で、泣き声通告を民間で補うことで、児相が重度のケースに丁寧に対応できる」と意義を述べた。
2021年度の埼玉県内の相談対応 1万7606件で過去最多
埼玉県内の児童相談所(さいたま市を含む)の2021年度の虐待相談対応件数は、1万7606件(前年度比704件増)で過去最多となった。
児童相談所ごとの対応件数は川越が2773件で最も多く、所沢が2541件、南(川口市)が2274件と続いた。
虐待種別では、夫婦間のドメスティックバイオレンスの目撃など心理的虐待が最も多く1万1355件(64.5%)。身体的虐待3742件(21.3%)、育児放棄などのネグレクト2352件(13.4%)、性的虐待157件(0.9%)だった。