東京都の小学校教員、受験倍率が過去最低の1.1倍に 休めない環境を敬遠か 残業は月平均123時間…現役教員も57%が「勧めない」
10年で受験者半減 際立つ低倍率
10月15日、渋谷区で開かれた教員志望者向けのセミナー。若手教員との座談会や個別相談、給与・休暇など福利厚生制度の紹介ブースなどを設け、高校生や大学生、社会人ら約900人が参加した。
高校教諭を目指す私立大3年の女子学生(21)は「現役教員の話を聞いてやる気が高まった」と満足そう。小学校の教諭を志望する私立大3年の男子学生(20)は「選考のことも含めて、具体的な未来の設計図を描けた」。一方で「X(旧ツイッター)では『休めない』『自分の時間を全然取れない』などネガティブな情報も多くて、目指すべきか不安もある」と明かした。
昨年に続き2回目の開催。都教委がこうしたセミナーを開く背景には、採用試験の受験者が激減していることへの危機感がある。2013年度に全体で1万6284人だった受験者数は、2023年度に7948人と半減。小学校教員の受験倍率は1.1倍に落ち込んだ。首都圏の他県の小学校受験倍率は1.5~3.4倍で、都の低さが目立つ。
合格者と採用数は増えているが…
減少の背景について現場からは、長時間労働にもかかわらず残業代が出ないなど、厳しい労働環境への懸念が指摘される。連合総合生活開発研究所が昨年、教員約1万人を対象にした実態調査によると、残業時間は月平均123時間16分で、国が示す過労死ライン(月80時間)を大きく超えた。「教員の仕事を勧めるか」の問いには「勧めない」が57.6%で「勧める」の41.8%を上回った。
一方、2013年度試験の都の合格者は約2600人だったのに対し、2023年度は約4900人と倍近くに増えた。都教育庁の担当者は「35人学級の導入などで採用数自体も多くなっている。倍率だけをみると教職人気が下がっているように思われるが、必ずしもそうではない」と強調。他県との差については「教職員の増減や少子化の状況など、都や他県では事情が異なる。他県との比較、分析はしない」とする。
受験者減少に歯止めをかけようと、都教委は教員経験者が10年以内に復帰する際に1次選考を免除する「カムバック採用」を2023年度に新設。担当者は「多様な人材が教員を目指せる取り組みを進めたい」としている。
教育実習で「この現場は無理」とあきらめる学生も
「最近は、教育実習に来て『この現場は自分には無理だ』とあきらめてしまう学生も多い」。東京都公立学校教職員組合(東京教組)書記長で、都立小教諭の武捨(むしゃ)健一郎さん(49)が指摘する。「楽しい行事などを思い描いていても、多忙な現実を見て、イメージとかけ離れていると感じてしまうのでは」
武捨さんによると、小学校で担任になると週に24~26コマの授業を担当することが多く、日中の空き時間はほとんどない。テストの採点、集金の回収、教室の床のワックスがけ、通知表の所見など膨大な業務をこなすため、早朝に出勤したり、仕事が深夜や休日に及んだりすることもある。
武捨さんは「志望者を増やすには、授業づくりなど本来の業務に教員が専念できるよう、ゆとりのある学校にしていくことが必要だ」と語った。
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