「主婦のかたわら」「働くママ」? どのお母さんも働いている〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉7

かみ合わない会話に怖くなって

 あれは飲み屋だったか。私は漫画家をしていて、夫と娘がいる。そんな簡単な自己紹介を隣に座っていた人にしたところ、私と同じ年頃のその男性はこう言った。

 「ということは、主婦のかたわら、漫画の仕事をしているんですね」

 かたわら…そうなのか?

 ちょっとニュアンスが違う気がする。私はこう答えた。

 「主婦のかたわらというか、メインは仕事のほうですかね」「なるほど、瀧波さんは主婦じゃない…すると、旦那さんが主夫なんですか?」

 お、おう。なんでそうなるのか。

 「いや、夫も家事育児はやりますけど、主夫ではないです」「じゃあやっぱり、瀧波さんは主婦で漫画家ってことですよね」

 なんだかもう怖くなり適当に流したのだが、あれはなんだったのだろう。きっと彼にとって家庭とは、主婦か主夫がいなければ成り立たないものなのだ。

イラスト・瀧波ユカリ

 こんなこともあった。「働くママ」のひとりとして話をするという企画。いざトークする段になり、私は恐る恐る言った。「ここで言う『働く』って、賃金が発生する仕事をしているという意味でしょうけど、私は家事や育児や介護も『働く』だと思うんですよね。なので賃金労働者に限って『働くママ』とすることに少しためらいがあるのですが…」

 するとその場の全員がすぐ「確かに!」と反応した。しかし、代わりの言葉がなかなか見つからない。「お仕事ママ」という案が出たが、家事だって「家事仕事」だよね…となり、悩んだ末に「育児とキャリアを両立させたい私たち」という言い方を選んだのだった。

家の中のことをやるのも「働く」

 これは歴史の問題だ。「主婦」や「ママ」は職を持っていないか、持ったとしても「かたわら」でやるものである。仕事に全振りする「主婦」や「ママ」などありえない。そんな過去の社会通念と、多様化した女性たちの生き方が言葉の上でハレーションを起こしているのだ。

 ではどう変えていくか。娘が幼稚園生だった頃、こんな話をしたことがある。

 「ねえお母さん、◯◯ちゃんのお母さんは働いてないんだって。働いてるお母さんと働いてないお母さんがいるの?」「うーん、『働く』って、だいたい会社やお店で仕事することをさすけど、家の中にもやることってたくさんあるから、それをするのも『働く』だとお母さんは思う。だからどのお母さんもみんな、働いてるよ」

 わが家ではこういう会話を繰り返してきた。これからもそうしていく。女の子たちがどの道を選んでも、自分を誇れるように。

【前回はこちら】2泊3日の一人旅 家族から離れて不安になって

瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。