〈坂本美雨さんの子育て日記〉74・子どもとの平和な時間にすら罪悪感を覚えるけれど…

(2023年11月8日付 東京新聞朝刊)

にじんでいく色を見つめて

よろこびあうことは間違いじゃない

 イスラエルとガザの紛争が勃発して1カ月、なにをしていてもどこかでつらい気持ちで過ごしていた。最初にハマスの襲撃があったのが音楽フェスだったということが人ごととは思えず衝撃で、ニュースを追いかけた。その後、逃げ場のないガザで殺されている民間人たち、その4割以上を占める子どもたちのことを考えると胸が張り裂け血が沸騰するようで、自分はかりそめの平和のなかで何をしているんだろうという気持ちになっていた。

 思えばここ数週間ずっと、子どもや自分の日常を守ること、楽しんだり友人と笑ったりおいしいものを食べたりすること、華やかな場で自分の仕事を全うすることにも罪悪感がよぎって、苦しかった。でもそれは危険なサインだよと警告する自分もいた。

 コロナ禍、全て自粛され目に見えないものにおびえるなかで、それでも可能な限り笑い合ったりいろんな方法を探しては愛を伝え合ったりしていた。そのことを残したくて当時、曲を作り「よろこびあうことは間違いじゃない」と歌ったのに、そんなこともすっかり忘れていたから。

 そうだ間違いじゃないはず。現実を知ること、目を背けないこと、声を上げ行動することは必要だ。でも、そのために子どもとの平和な時間にすら罪悪感を抱き、カリカリしたり不安定になるって本末転倒じゃないか。…と、行ったり来たりしている。とにかく、一刻も早く、停戦を。私にできることはなんだろうか。

 そんななか娘と京都へ。久しぶりのふたり旅。私の姉のような人、画家の下條ユリさんの家に泊まらせてもらった。いつでも絵が描けるようになっている彼女のアトリエで一緒に水彩で絵を描き、色がにじんでグラデーションになる様子に興奮して目を輝かせていた。ユリちゃんは娘のやることを心から褒めてくれながら、その色彩を一緒に喜んでいて、そのふたりの姿を見ていると、私は「子どもと同じ目線で」といいながら、娘の精神年齢を引き上げているだけで、私が童心に返っていることは少ないんじゃないかとハッとさせられた。

 次の朝、目が覚めると娘とユリちゃんはもう起きて一緒にコーヒーを淹(い)れていて、「ママは自分で淹れるとおいしくないっていうからしかたなく淹れてあげてる」と説明していた。私は寝たふりをしながらしばらくその会話を聞いていた。そして心の底から幸せだなぁ…と思ったのだった。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

コメント

  • 私は母親という選択はしませんでしたが美雨さんのこの連載を読むといつも心が温まります♡
    Nutmeg 女性 40代 
  • 戦争・紛争 我が家でもタイムリーな話題でした。5歳の娘は今年の夏にTVから流れて来たこのワードに関心を持ち、かいつまんで話しました。 爆弾が落ちてくる怖さは雷の怖さ(娘は大嫌いなのです)を例に
    のーやんママ 女性 40代