〈坂本美雨さんの子育て日記〉73・あれもこれもできなくてがっかり…な自分を卒業したい

(2023年9月27日付 東京新聞朝刊)
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指がピッタリくるなにか

坂本美雨さんの子育て日記

他人のことはそんなふうに見ないのに…

 ひさしぶりに家のなかで夕暮れの光を感じた。ふだん夕方に家にいることはとても珍しい。平日は仕事、週末も予定を詰めて外に出てしまうから、この家に入る光が夕方はこんなに柔らかいなんてすっかり忘れていた。ネコのサバ美をなでながら、隣で娘も紙粘土に熱中していて…幸せだなぁ、と思う。

 最近とても疲れていたような気がする。声の仕事なので健康には気を使っているほうで、毎日酵素とサプリいろいろ、体調によって漢方を使い分け、なにかとプロの手も借りて十分元気になれるはずなのに、つい娘の前でも「つかれたぁー」と漏れてしまう。でも、分かっている。自分が本当に疲れるのは忙しくしている時じゃない。できていないことがたまっている状態、に心底疲れてしまうのだ。そして自分のこととなると、できていることよりもできていないことに着目してしまう。他人のことはそんなふうに見ないのに…。

ちゃんと毎日の生活をしてるじゃないか

 自分自身の家事や生活のことを私は軽く見る癖があるけれど、それではだめだとある日突然、メッセージが降りてきた。仕事が進んでいなくたって、夏の間に縫いたかった娘の浴衣にいっさい手をつけていなくたって、1年前の引っ越しの段ボールがまだ積まれていたって、ちゃんと毎日の生活をしてるじゃないか。栄養を考え、お弁当を作り、水筒のパッキンを外して洗っている。丁寧とは言えないけれど「暮らし」をやっている。

 それを軽く見ないで、認めてあげなきゃいけない。作品を作りライブをして歌っているのが私、でもあるけれど、そんなことしてなくたって楽しく生活する自分に喜びを見いださないと。あれもこれもできてない自分にがっかりして疲れていくのは、そろそろ卒業したい。

 さて、夏休みの間にハリー・ポッターに夢中になり自由研究で紙粘土で魔法のつえを作っていた娘、今でも四六時中くにゅくにゅ紙粘土をこねていて、家中そのカケラが散らばっている。なにかしら形になっていれば取っておくのだけど、謎の破片は思わず一気にザザッと捨てたくなるのだが…。「これはいる?」と聞いてみると、「これはね、指の形がぴったりおさまるように作ったよ!」とのこと。触れてみると、あぁ、たしかに指にピッタリくる。その瞬間、とても反省した。既存の形じゃないからって、彼女が作るものにはちゃんと意味があるのだ…。しばらく謎のカケラたちとの生活は続きそうである。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

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