新生児を写す「ニューボーンフォト」 が人気 神秘的な姿を残し、産後の悩みに寄り添う
撮影現場でわかる、母親たちの「悩み」
「依頼者の多くは、気持ちに余裕のある人。それでも産後うつに近い人もいる」
夜泣きが止まらない。夜中に眠い目をこすって抱っこしてあやす日々に、疲れが積み重なる。うまくお乳を飲んでくれない。自分の育児は「正解」か。イライラして子どもや家族にひどい言葉を投げ付け、自己嫌悪になる。母親たちがこぼす不安や悩みを、2歳と5歳の男の子の母である河合さんも経験した。
撮影時、泣きやまない赤ちゃんもいる。「ミルクが足りていないと分かっていても、はっきり言わないようにしている」。河合さんが「初めての撮影で緊張しているのかな」と赤ちゃんに声をかけてあやすと、母親が打ち解けて話しだす。
つらい時に、見返すと「初心に戻れる」
広告写真やモデルの撮影を手掛けていた河合さんは5年前、ニューボーンフォトを撮り始めた。「海外の作品を見て衝撃を受けた。生まれたての姿そのままで神秘的で」。産院で撮影をするようになり、現在はインターネットで写真や動画素材を提供する「ピクスタ」の出張撮影サービス「フォトワ」に登録し、依頼者の要望に応じて赴く。
河合さんの撮影した新生児たちは手足が細く、壊れそうに小さい。守らなければという思いもわく。元気に動き、表情が豊かな生後数カ月の赤ちゃんと別の生き物のようだ。「子育てがつらくても、写真を見返して初心に戻るんです」と河合さんは笑う。
2017年は247件→2018年は1103件に
ピクスタによると、ニューボーンフォトの依頼はサービスを始めた2017年の247件から18年には1103件に。広報の塚田萌さんは「ごく短期間にしか見られない姿だからこそ、残しておきたいと思うのでは」と語る。
利用者からは「写真を見て、育児に行き詰まりを感じていた気持ちが癒やされる」(40代)「新生児期は毎日がつらく、赤ちゃんをかわいいと思う余裕がなかった。写真を見返し、こんなにかわいかったんだなと目を細めている」(30代)という反響がある。助産師と連携して新生児の扱いや産後の母親との接し方などをカメラマンに学んでもらうことも考えている。
産後1カ月は本当に大変 もっとケアを
ニューボーンフォトの人気は、会員制交流サイト(SNS)の普及で「インスタ映え」を意識する人が増えたためと言われる。ただ、河合さんはそれだけではないという。「妊娠から出産までを乗り切った自分へのご褒美では」。依頼者の中には、長い妊活の末にようやく授かった人も多い。「赤ちゃん一人を授かり、産むのも大変な時代。母親にとって、育児は生まれる前から始まっている」
女性活躍や少子化対策をうたう社会でも、親が心から求める支援が行われているとは言えない。河合さんは産後間もない時期のケアを手厚く、と考える。
「産後1カ月間は本当に大変で、心身の負担が特に大きい。せめて愚痴をこぼせればいいけれど、日中に一人で育児をしていると、話し相手がいない。前向きな言葉を並べて充実アピールする空気があるSNSにも、書けない。悩みを打ち明けたり、息抜きできるようにする支援を考えなくては」と語る。