卵子・精子提供の「出自を知る権利」は先送り 特例法案あすにも成立 出産した妻が母、同意した夫が父に

(2020年12月2日付 東京新聞朝刊)
 第三者から卵子や精子の提供を受ける生殖補助医療で生まれた子に関し、親子関係を明確にする民法の特例法案が今国会で成立する見通しだ。既に参院を通過し、衆院法務委員会も2日、共産党以外の賛成多数で可決した。4日の衆院本会議で可決、成立する見込み。長年、法整備の必要性が叫ばれながら、停滞していた問題は前進する。ただ、子の「出自を知る権利」の明記などは、当事者らの要望が強いにもかかわらず、積み残しの課題として結論を2年後に持ち越した。

生殖補助医療で生まれた子の親子関係を定める民法特例法案を賛成多数で可決した参院法務委員会=11月19日、国会で

親子関係を定める民法の特例法案、今国会で成立へ

 「(現在は)法律的には訴訟を起こさないと親子関係を確定できない。それを1日も早く解決する」。11月19日の参院法務委で行われた特例法案の審議。提出者として答弁した自民党の古川俊治氏は、成立させる意義を強調した。

 法案は自民、立憲民主、公明、国民民主、日本維新の会、社民の6党が議員立法で共同提出。

  • 女性が自分以外の卵子を使って出産した場合、卵子提供者でなく出産した女性を「母」
  • 妻が夫の同意を得て、夫以外の精子提供を受けて出産した場合、夫は生まれた子の「父」であることを否認できない

―と規定する。

 現行の民法は第三者が絡む生殖補助医療による出産を想定していない。子の身分が法的に裏付けられていないため、精子提供で誕生した子の父であることを否認する訴訟も起きていた。

 解決に向けた議論は1998年に旧厚生省で議論が始まり、厚生労働省や法務省の審議会が親子関係の明確化、出自を知る権利の明記などを打ち出してきた。自公両党が法案を策定したこともあるが、提出に至らず、ようやく今国会で成立の道筋が見えた。

卵子・精子の売買や代理出産の規制は盛り込まれず

 「法案に出自を知る権利が入っていないことに失望している」。参院審議に参考人として出席した慶応大の長沖暁子講師は、生殖補助医療で生まれた当事者らの聞き取り調査を続けてきた立場から、出自を知らないまま成長した後で事実に直面すると、人生に喪失感を覚える場合があると指摘。「子の福祉や権利を最優先にしないといけない」と主張した。

 法案には出自を知る権利だけでなく、課題とされる卵子・精子の売買や代理出産の規制などは盛り込まれなかった。成立を目指してきた議員の中にも「出自を知ることで不幸になる場合もある。提供する側の萎縮にもつながり、確保が難しくなる」(自民党中堅)などの慎重論があるためだ。

当事者「情報にアクセスするか、選べることが重要」

 議論が置き去りになることを懸念する声は当事者に強く、11月24日には精子提供で生まれた成人の女性らが記者会見し「親が真実を伝え、その上で子が提供者の情報にアクセスするかどうか、選べることが重要だ」などと訴えた。日本弁護士連合会は、法案に出自を知る権利や情報管理制度を盛り込むよう求める声明を発表している。

 参院法務委は法案可決に際し、残る課題は「2年後をめどに法的な措置を検討する」ことを盛り込んだ付帯決議を議決。各党は成立後、超党派の議員連盟を立ち上げ、議論に入る。出自を知る権利の場合、提供者情報をどこまで開示するのか、どの組織が情報を管理するのかなどが論点となる見通し。各党内の意見集約が難航する可能性もあり、関係議員からは「法制化するなら、党議拘束を外して採決するしかない」との声も出ている。

「大きな進歩」産婦人科医の吉村泰典・慶応大名誉教授の話

 子どもの法的地位を定めたことは大きな進歩。出自を知る権利は日本の風土や家族観もあって簡単にはまとまらなかったのだろうが、認められる方向になるだろう。