HPVワクチンの積極的勧奨を再開へ 海外データで有効性裏付け 現在の高1は2022年3月のタイムリミットに気をつけて
ヒトパピローマウイルス(HPV)とは
ヒトパピローマウイルス(HPV)とは 女性特有の子宮頸がん、男性に多い中咽頭がんや肛門がんなどを引き起こすウイルス。200種類以上の型があり、国内ではこのうち2種または4種の型を予防する2価または4価ワクチンが定期接種の対象。2月に販売開始された9価ワクチンは定期接種の対象ではないが、予防率は4価ワクチンより20ポイント以上高い約88%とされる。英国、米国、オーストラリアなどでは男性も無料接種の対象。
8年前に呼び掛け中止 接種率1%未満に
ワクチンは、子宮頸がんなどの原因となるHPVへの感染を防ぐのが目的。2013年4月に市町村が実施する原則無料の定期接種となったが、接種後に全身の痛みなどを訴える人が続き、国などに損害賠償を求める裁判が各地で起こされた。国は因果関係を認めていないが、同年6月、対象者への積極的勧奨は中止。当初70%以上あった接種率は1%未満に落ち込んだ。
2年前、当時高1の長女(17)が「ぎりぎりで」計3回の接種を終えた名古屋市内の母親(44)は「無料で打てるとは知らなかった」と振り返る。もともと打たせる気だったが、個別の通知が来ないため「定期接種の枠から外れたと思っていた」と言う。自費だと3回で約5万円にもなる。長女は10月に1回目、3回目を打ち終えたのは進級直前の3月末だ。
中2の次女は今年9月に最後の接種を終えた。姉妹に接種した同市千種区の江口医院院長で、市小児科医会会長の江口秀史さん(66)は「公費で接種できる期間は限られているのに、対象者に情報が届いていないのが問題だった」と話す。
スウェーデン調査 早く打つほど予防効果
こうした声が高まる中、厚労省の専門部会が会合を開き、中止されていた積極的勧奨の再開を認めたのは1日。多様な症状と接種との関連については明らかになっていないと評価した。
流れを大きく変えたのは世界でワクチンの有効性を示すデータが出てきたことだ。その一つ、昨秋まとめられたスウェーデンの研究は10~30歳の約167万人について、接種とがん発症の関係を調査。それによると、接種した人の発症リスクは、しなかった人に比べ63%減少。10~16歳では88%低く、早くワクチンを打つほど予防効果が高いことが明らかになった。
啓発する医師「接種間隔を早める方法も」
厚労省は再開への動きを少しずつ強めてきた。昨年10月には、HPVワクチンのメリットとリスクを説明するリーフレットを改訂。知らずに無料の接種機会を逃す人を減らすため、対象者に届けるよう自治体に通知した。子宮頸がんを身近に感じられるよう、学校を例に「一生のうちになる人は2クラスに1人ぐらい」「亡くなる人は10クラスに1人ぐらい」とイラスト付きで紹介している。リーフレットは厚労省のサイトでダウンロードできる。
海外では100カ国以上で、公的な制度に基づいてワクチン接種が行われている。HPVワクチンの啓発に力を入れる「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」代表理事で、産婦人科医の稲葉可奈子さんは、現在の高1に向け「やむを得ない場合は、接種間隔を縮め、4カ月ほどで打ち終える方法もある」と強調。「『時間が足りない』とあきらめず、自治体やかかりつけ医に相談してほしい」と呼び掛ける。
子宮頸がんとは
子宮の入り口付近にできるがん。日本では20~40代の女性を中心に、毎年1万1000人がかかり、約2800人が亡くなる。性交渉によるHPV感染が主な原因。性交渉経験前にワクチンを接種することが予防の鍵となる。
接種の案内送付には地域差 港区と江東区では公費接種の期間を延長
厚労省は3月、対象者が接種機会を逃すことがないよう、リーフレットなどを送って案内したかどうかを1737市町村に調査。それによると、2020年度中に送った自治体は61.5%。「本年度、送付の予定がある」としたのは76.4%と、さらに増えた。「実施予定なし」は5.9%、「未定」は17.7%だった。
三重県津市は昨年10月、期限が迫る高1に、今年7月には中1~高1に案内を出した。その結果、2019年度に1.2%だった接種率が、2020年度は5%まで増えた。加えて、昨年4月は22件だった接種回数も、今年8月は209件に。本年度から送付を始める名古屋市は、7月に中3と高1、10月には中1~2、来年度以降は中1に案内をすることで接種機会を確保してもらう考えだ。
一方で、送付の予定がない岐阜県安八町の担当者は「国が積極的勧奨を再開していなかったことと、新型コロナウイルスの対応に追われているため」と説明する。安八町では、定期接種の費用は市町村が実費を徴収することが可能とする予防接種法に基づき、本人に1回1000円の負担を求めている。これらの影響か、4月以降に接種を受けた人は数人にとどまる。2020年度は2人、2019年度はゼロだった。
一方で、新型コロナの感染拡大で外出自粛が叫ばれる中、公費で受けられる期間を延長している自治体もある。東京都港区や江東区は、現在の高1と、既に期限を過ぎた高2の年齢に当たる人については2023年3月末まで公費の対象に。ホームページやお知らせを送るなどして、期間延長を周知している。
2008年に子宮摘出…三原じゅん子参院議員「他の女性に同じ思いをしてほしくない」
再開しない理由はありません。国民の理解も進み、風向きが変わった
-対象者への情報提供は自治体によってバラバラ。情報格差が生まれているのではないでしょうか。
国が積極的勧奨の再開を明言してこなかったことが、自治体を困らせてきました。その結果、定期接種なのに(リーフレットなどで)案内をもらっている人と、いない人が出てしまいました。
-積極的勧奨再開に向けての動きをどう見ていますか。
スウェーデンでの研究結果など、ワクチンの有効性と安全性を示すエビデンス(根拠)がここ数年で出てきており、再開しない理由は見つかりません。国民の理解も進み、風向きが変わったと感じます。これまで自治体は新型コロナのワクチン対応に追われていたため、国は再開のタイミングを探ってきました。
私の子宮頸がんが分かったのは、HPVワクチンが日本で承認される前の2008年。子宮を摘出して子どもを宿せなくなりました。同じ思いを他の女性たちにはしてほしくありません。
-健康被害を訴えて国や製薬会社に治療費の支払いなどを求める裁判が続いています。
そうした方たちが治療に専念できる医療的支援の整備にも力を入れてきました。医療機関に相談しても分かってもらえず、苦しい思いをしてきた方たちがいることも承知しています。ただ、打つ・打たないは、本人と保護者に正しい情報を提供した上で判断してもらうことが大切です。