国内唯一の母乳バンクが1周年 早産の赤ちゃん200人にミルクを届ける ドナー登録できる施設増やしたい
低温殺菌して冷凍保管、NICUへ発送
「日本橋 母乳バンク」は昨年9月、医療関係者有志らでつくる一般社団法人「日本母乳バンク協会」が東京・日本橋にある育児用品メーカー「ピジョン」本社内に開設した。寄付された母乳を低温殺菌して冷凍保管し、提携する病院の新生児集中治療室(NICU)へ発送する。
提供対象は早産などで1500グラム未満で生まれ、死別や新型コロナ感染などにより授乳を受けられなかったり、母の母乳が十分に出なかったりする赤ちゃん。今年8月末までの1年間で計217人にドナーミルク445リットルを届けた。
2014年には国内初の母乳バンクが昭和大江東豊洲病院(江東区)でサービスを始めた。ただ、今年3月に新型コロナの影響で閉鎖。唯一のバンクとなった「日本橋 母乳バンク」はパート職員を増やすなどして人員体制を強化し、現在は10人が業務に当たる。
母乳は消化しやすい形の栄養素や、病原体から体を守る免疫成分を含む。同協会によると、早産の赤ちゃんの命に関わる壊死(えし)性腸炎にかかるリスクを人工乳の約3分の1に下げる。
528グラムで生まれた子が元気に成長
9月末にはピジョン本社で1周年を祝うイベントが開かれ、ドナーミルクで育てられた関西在住の1歳5カ月の女の子と父親、医師がオンラインで参加した。
母親はがんを患っており、北野病院(大阪市)で妊娠24週に帝王切開で528グラムの女児を出産。6日目に亡くなった。「めいちゃん」という愛称の女児は9日目から約3カ月間、昭和大病院の母乳バンクから送られたドナーミルクを飲んで育った。北野病院NICUの水本洋医師は「順調にミルクを増量してわずか1週間後に点滴栄養を卒業できたのは、ドナーミルクのおかげ」と振り返った。
女児は生後半年ほどで退院してからも健やかに成長し、室内では父の後を元気に追いかけているという。父親は「善意で母乳を提供してくださったお母さんに感謝しています」と笑顔で話した。
登録施設17カ所「小さな命守る活動を」
国内では現在、母乳を寄付するために検診を受けてドナー登録できるのは17カ所の医療機関に限られる。
同協会代表理事で小児科医の水野克己・昭和大教授はこうした現状を念頭に「まずは登録施設を増やすのが課題。日本全体で小さな命を守っていく活動を続けていきたい」と抱負を語った。