赤ちゃんに絵本を贈る「ブックスタート」 親子の孤立を防ぐきっかけに 20年で1000超の自治体が参加
絵本を介してお母さんとお話を
東京都立川市で2月半ばに行われたブックスタート。3、4カ月健診を終えた赤ちゃんと親が立ち寄るスペースで、ボランティアが赤ちゃん向け絵本「ぎゅうぎゅうぎゅう」を読み聞かせたり、雑談したりして和やかな空気が流れる。
「(家事と子育てを一人でこなす)ワンオペ育児の時間が多くて不安もあったけど、ホッとできた。絵本の読み方も参考になった」。昨年10月に生まれた男の子を抱いた原みうさん(29)は笑顔を見せた。
立川市は2007年にブックスタート事業を始めた。子育て支援の担当部署が母子保健担当や図書館と連携して実施。市子ども家庭支援センターの村上久美子さんは「ボランティアがそれぞれの親子に応じて、上手に対応してくれている」。事業開始時からボランティアを続ける市内在住の高野泉さん(59)は「好きな絵本を介してお母さんたちとお話しし、少しでもお手伝いができれば」と思いを語る。
増える外国人の親子に多言語で
推進団体のNPOブックスタート(東京)は、その市区町村に生まれたすべての赤ちゃんとその保護者を対象にすることなど、活動の理念が生かされるように各自治体の事業を支援している。「一見不自由ないように見えても、絵本との橋渡しが必要なこともある。困窮家庭だけでなく、『すべての』を大切にしている」と小林浩子事務局長。増え続ける外国人親子向けに多言語で絵本を紹介することなどにも取り組む。「地域の皆さんの知恵を集め、柔軟に行われているのが良いところ」
ボランティアが関わる官民協働の活動の形は、ブックスタートの発案者である英国のウェンディ・クーリングさんが2016年に来日した際、「素晴らしいモデル」と称賛された。これを機に、世界各地の活動を互いに学び合うネットワークもできた。
一方で、20年の間に担い手の高齢化が進み、各地域からは活動継続に悩む声も上がる。小林さんは「絵本を受け取った保護者がその後ボランティアになるなど、いい循環もある。意義を共有し、関わってもらえる人を広げたい」と話す。
NPOブックスタートは今年1月、これまでの歩みと、これからを展望する「ブックスタートの20年」を出版した。
「行政と民間」が協力している点にも意義があります
元厚生労働省事務次官で津田塾大客員教授 村木厚子さんの話
赤ちゃんに絵本を読み聞かせることは、手探りで子育てを始めた親にとって大切な時間です。表情や反応を間近で見ながら、子どもというものを理解していく手掛かりになるからです。私自身もそうでした。
ブックスタートは、そんな子育てスタート期に「みんなで応援しますよ」という気持ちを届ける仕組みです。子育てへのプレッシャーや孤立感が増す中、その必要性はますます高まっています。
行政と民間の方々が協力して運営している点にも大きな意義があります。私は37年余り、公務員として仕事をしてきましたが、行政はここはできる、この部分は市民の皆さんというふうにそれぞれの力を出し合うことが大事なのです。
信頼できる公務員に出会った市民は、行政全体への信頼を深めてくれます。税金の使い道にもより関心を持ってもらえるでしょう。みんなで何ができるかを考えることが今こそ求められていると思います。