新出生前診断 NIPTは3疾患以外の精度は不明、偽陽性も 難病の娘に思う「この子の母親になれてうれしい」

(2022年3月23日付 東京新聞朝刊)
NIPTは今 新出生前診断を考える(2)

「子育ての価値観を変えてくれた」という次女(右)は、長女(左)とも仲がいい(高本さん提供)

検査対象は先天性異常のごく一部

 妊婦の血液から、胎児の疾患の可能性を推定する新出生前診断(NIPT=Noninvasive prenatal genetic testing)。わずかに含まれる胎児由来のDNAを解析し、染色体に異常があるかを調べる。

 ただ、1~22の染色体のうち、日本産科婦人科学会(日産婦)が指針で検査の対象としているのは、染色体が通常より1本多い13番の13トリソミー、18番の18トリソミー、21番のダウン症の3つ。「陰性」なら99%以上の確率でこれらの病気ではないが、数多い先天性異常の一部にすぎない。

「陰性」で出産 ターナー症候群に

 滋賀県の高本玲代(あきよ)さん(46)の次女(5つ)は、ターナー症候群を患う。病気が分かったのは4歳の時。健診で身長が平均を下回っていると指摘され、小児科で血液検査を受けて判明した。

 ターナー症候群は、性別を決める染色体が生まれつき1本だったり、一部が欠けていたりすることが原因だ。低身長や卵巣機能の異常などが特徴で、医師には「98%以上妊娠できない」と告げられた。

 高本さんは、妊娠中にNIPTを受けた。勧めたのは母親だ。高齢での妊娠、出産を心配し「もし異常があったら、将来、上の子に負担がかかるから」と促された。日産婦の指針に基づいた検査を実施する施設として認定されている大学病院での結果は「陰性」。健康な子が生まれてくると信じて出産に臨んだ。

 そのため、分かったときは「まさか、そんなことがあるのか」とショックだった。振り返ると、次女は言葉の発達が遅かった。病気の影響で滲出(しんしゅつ)性中耳炎になりやすく、聞こえが悪いことが理由だった。

「妊娠中に分からなくてよかった」

 あれから1年。高本さんは「次女は私の価値観を変えてくれた」と言う。長女(11)には、3歳から文字を教えたりピアノを習わせたりと「教育ママだった」と断言する。けれど、成長がゆっくりな次女は「そばでにこにこしてくれているだけで幸せ」。よく笑う子で、保育園でも人気者だ。覚えたての字で「だいすき」と手紙をくれることも。「この子の母親になれてうれしい」と心から思う。

 長女への接し方も、本人の自主性を大事にするようになった。「完璧を求めても、親の思いどおりにはいかないのが子育て」としみじみ話す。「NIPTで分かる病気は限られている。私は、妊娠中に病気が分からなくてよかった」

親の思いにつけ込む「不安ビジネス」

 日本医学会の運営委員会が2月に示したNIPTの新指針でも、検査の対象となる染色体の異常はこれまでと同様、ダウン症など3つだけだ。認定施設の一つ、国立成育医療研究センターの左合治彦副院長(64)によると「この3疾患以外に関しては、NIPTの精度がよく分かっていない」のが現状。「結果が陽性でも、胎児に疾患が存在しない偽陽性の可能性が高い」という。

 にもかかわらず、認定を受けずにNIPTを実施している施設の中には、全染色体や性染色体の検査をうたうところがある。検査項目が増えるに従い、費用がかさむ仕組みだ。そうした施設で、3疾患以外の「陽性」結果が出たとしてパニックになり、成育医療センターに駆け込んでくる妊婦もいるという。

 健康に生まれてきてほしいというのは、全ての親の願いだ。左合さんは「指針で認められていない検査は、そうした思いにつけ込んだ『不安ビジネス』」と批判。その結果は、誤った判断を助長しかねない。

 急速に広がる新出生前診断(NIPT)。「命の選別」につながるという指摘もある検査と、どう向きあえばいいのか。3回にわたって考える。

(1)手軽な検査で重い結果 急増する無認定施設

(2)3疾患以外の精度は不明、偽陽性も 難病の娘に思う「この子の母親になれてうれしい」

(3)新出生前診断を全ての妊婦に知らせる新指針への不安 差別や排除が助長されないか

コメント

  • 出産予定日には36歳になる妊婦です。 認定を受けずにNIPTを実施している施設は『不安ビジネス』だというのは記事で指摘されている通りだと思います。 ただ、一人の高齢出産を迎える妊婦として、メデ
    M子 女性 30代