新出生前診断 NIPTにどう向き合うか 手軽な検査で重い結果 急増する無認定施設

(2022年3月22日付 東京新聞朝刊)
NIPTは今 新出生前診断を考える(1)
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中絶をした胎児の手形と足形。母子手帳に貼って大切にしている

ネット予約、30分、25万円で「陽性」

 陽性―。自宅に届いた封書を開けた瞬間、その2文字が目に飛び込んできた。胎児の染色体異常を、母親の血液から推定する新出生前診断(NIPT=Noninvasive prenatal genetic testing)の結果だ。ダウン症の可能性があるという。涙がこぼれた。「真っ暗な穴に落ちたような感じ」

 千葉県の女性(40)がNIPTを受けたのは、2019年11月上旬。妊娠12週ごろだ。東京都内の雑居ビルにある産婦人科クリニックで、医師による診察と検査についての説明の後、腕から採血した。

 クリニックはインターネットで見つけた。NIPTの実施施設として日本医学会が認定している施設ではなかったが、ネットで予約ができ、日曜もやっているといった気楽さで決めた。

 待望の第1子。「たぶん大丈夫だけれど検査はしておこう」。待合室は妊婦であふれ、見るからに20代という若い人もいた。かかった時間は30分ほど。費用は約25万円だった。

19週で中絶「かわいい」と「ごめんね」

 NIPTの結果だけでは正確な判定はできない。女性は妊娠16週になった12月上旬、おなかに針を刺して羊水を採取する「羊水検査」を受けた。約2週間後に出た結果は、やはり陽性。障害のある人が身近にいた経験がない。どうしても自信が持てなかった。

 夫婦で話し合い、妊娠19週で中絶した。胎児は男の子。胸に抱かせてもらった。「かわいい」。眠っているような顔に、思わずつぶやいた。小さな手形と足形をとり、母子手帳に貼った。「ごめんね」と言いながら泣いた。「検査は手軽でも、結果は重かった」

認定施設より多い無認定 美容外科も

 ダウン症など3つの疾患の可能性を調べることを目的に、日本でNIPTが始まったのは2013年だ。日本産科婦人科学会の指針は、リスクの高い、おおむね35歳以上、上の子にダウン症などの病気がある―といった妊婦に対象を限定。検査で何が分かるかを伝え、意思決定を支える遺伝カウンセリングを行うなどを条件に、日本医学会が実施施設を認定してきた。

 認定施設でつくるNIPTコンソーシアムによると当初15カ所だった認定施設は2021年3月には108まで増加。体の負担が少ないため希望者は多く、年に1万5000人ほどが受ける。

 一方で、近年、認定を受けずに検査を実施する施設が急増している。コンソーシアムによると、その数160以上。年齢制限や遺伝カウンセリングがなかったり専門外の美容外科が実施したりしている例もある。

今春に新指針 「原則35歳」から拡大

 検査結果だけが一人歩きすれば、妊婦や家族が混乱する。認定施設の一つで、年間700件近い検査を行う国立成育医療研究センターの左合治彦副院長(64)は「NIPTは超音波検査などで胎児の状態を確認しながら、確かな技術を持つ専門医が行うべきだ」と憤る。

 こうした状況を改めようと、日本医学会の運営委員会は2月、新たな方針を公表した。原則35歳以上としてきた検査の対象を拡大。遺伝カウンセリングをした上で不安が解消されない場合は、年齢に関係なく受けられるとした。大学病院などに限られていた認定施設も、研修を受けた産婦人科医が常勤していることなどを条件に数を増やす。

 「若い妊婦をはじめ不適切な検査をする無認定施設へ向かう人の流れを止めるには、必要な対策」と左合さんは力を込める。指針の運用は、今春にも始まる。

 急速に広がる新出生前診断(NIPT)。「命の選別」につながるという指摘もある検査と、どう向きあえばいいのか。3回にわたって考える。

(1)手軽な検査で重い結果 急増する無認定施設

(2)3疾患以外の精度は不明、偽陽性も 難病の娘に思う「この子の母親になれてうれしい」

(3)新出生前診断を全ての妊婦に知らせる新指針への不安 差別や排除が助長されないか

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