出生前診断に悩む妊婦の”心の居場所”になります「親子の未来を支える会」
「中絶なんてできない」心の中では葛藤
三重県松阪市の女性(41)は長女のひなたちゃん(2つ)を妊娠していた2019年春ごろ、妊婦健診の超音波検査で染色体異常の可能性を指摘された。「胎児ドック」専門の産婦人科クリニックで、おなかに針をさして調べる絨毛(じゅうもう)検査などを受けた結果、ダウン症の陽性が確定。心臓疾患の可能性があることも判明した。
約2年にわたる不妊治療の末、やっと授かったわが子。流産も2度経験している。中絶なんてできない。生まれてもちゃんと育つのかが心配になり、思わず「あきらめないと駄目ですか?」と医師に聞いた。返事は「あきらめる必要はないですよ」。続けて促された。「パワフルなお母さんがいるから連絡してみたら」
紹介されたのが、ダウン症の長男(24)を育てながら「親子の未来を支える会」の理事を務める水戸川真由美さん(61)=東京=だ。わざわざ女性の地元まで会いに来てくれた。「産む」とは決めていたものの、心の中では葛藤していた。
オンライン相談「胎児ホットライン」も
なんで「普通の子」に産んであげられないのか、この子は私たちのもとに生まれてきて幸せなのか。喫茶店で約3時間、秘めていた思いを泣きながら吐き出した。「うん、うん」とうなずいて話を聞いていた水戸川さんは言った。「あなただから、赤ちゃんは来てくれたんじゃないかな」。その言葉に「この子を守れるのは私だけ、と思った」と女性は振り返る。
同年10月に誕生したひなたちゃんは、生まれてすぐに心臓の手術を受けた。最近は、1日の大半を呼吸器なしで過ごせるように。声を上げて笑い、抱くと胸に顔をくっつけてくる。娘をいとしいと思うたび「水戸川さんに背中を押してもらった。出生前診断を受けた人には、不安を理解し、支えてくれる人が必要」と思う。
15年に設立された同会の運営には、水戸川さんのほか産婦人科医や看護師、助産師らさまざまな職種の人が携わる。ホームページ(HP)などで相談を受け付ける傍ら、昨年4月にはオンラインで話を聞く無料の「胎児ホットライン」を開設。HPから日付を予約すると、同会の研修を受けた人が相談に乗る。時間は1時間ほどだ。
出産か中絶か どんな決断でも中立貫く
出生前診断を受けるかどうか迷っている人、染色体異常が分かり、産むか中絶するかで迷っている人…。「結果が出るまでの不安な気持ちを聞いてほしい」という声があれば、中絶した人が罪悪感を吐露することもある。これまでに約50人が面談を申し込んだ。
同会の特徴は、出産の強要も、中絶の推奨もしない中立的な立場であること。どんな決断を下すにしろ、妊婦本人とパートナーが話し合い、考え、納得して答えを出すことが何より大事と考えるからだ。
本人が望めば、障害のある子どもがいる家族や中絶を選んだ人を紹介することも。染色体異常の判明後、障害のある子を育てている家族に話を聞いた結果、産むことを選んだ人もいるという。「大きな判断を迫られる出生前診断は、妊婦の心の負担が大きい」と水戸川さん。「答えを出すまでの間、心の居場所になれるようにしたい」と話す。