赤ちゃんポスト「母親の逃げ道をつくり、命を守るのが重要だ」 江東区で構想進める医療法人理事長が訴え
2020年度の子ども置き去り1296件
ポストは都内で小児科医院などを運営する「モルゲンロート」が、2024年秋に開設予定の産婦人科診療所に設ける計画。24時間態勢で医療スタッフが常駐し、病院関係者以外に身元を明かさず出産する「内密出産」にも応じる意向だ。
小暮裕之理事長(43)は、小児科医として虐待された子どもの治療経験もあり「虐待をする母親の中には、自ら虐待を受けた人も少なくない。母親の逃げ道をつくり、赤ちゃんの命を守るのが重要だ」と訴える。
厚生労働省によると、2020年度に全国の児童相談所が把握した子どもの置き去り事案は1296件。7月には乳児を出産後に殺害、遺棄したとして神奈川県秦野市の10代の少女が逮捕されるなど深刻な事件が後を絶たない。
国内の医療機関で唯一、「こうのとりのゆりかご」として赤ちゃんポストを運営する熊本市の慈恵病院の蓮田健理事長も「周囲に知られず『ゆりかご』に行くには時間的制約があり、遠方から利用しにくい。関東に同様の施設ができるのはありがたい」と評価する。
2007年に熊本に 他の運用例はなし
ただ、赤ちゃんポストは2007年に慈恵病院が設けて以降、他に運用例はなく普及は進んでいない。慈恵病院では年間約2000万円かかっているコスト面や、医療スタッフを確保する体制面のハードルに加え、行政などとの連携がなければ運営が難しい事情がある。
慈恵病院では乳幼児を預かると、警察や熊本市の児童相談所に報告。健康状態の確認を経て、児相が乳児院や里親に託すなどの処遇を決める。市の専門部会が定期的に状況を確認するなど、きめ細かな検証も徹底している。
モルゲンロートがポストを設置すれば、東京都とともにチェックの役割を担う可能性がある江東区の山崎孝明区長は16日の定例会見で、ポストが自宅などでの危険な孤立出産を促すという懸念に言及。「お母さんが1人でとんでもない場所で出産してしまう」と指摘した。
また、区内の児相を所管する小池百合子知事は22日、小暮理事長と非公開で意見交換。都によると、知事は「医療機関で体制を確保してほしい。都だけでなく区、警察とも連携し、さまざまなポイントを整理して検討していくのが必要」と課題を挙げたという。
ドイツは90カ所以上 相談所も多数
母子の福祉に詳しい目白大人間学部の姜恩和(カンウナ)准教授によると、母子支援に積極的なドイツには、90カ所以上の赤ちゃんポストに加え、産前・産後の母親の相談に応じる相談所も1500カ所以上あるという。
姜准教授は「今回の動きを、妊娠期支援全体を問い直すきっかけにしてほしい。日本も妊娠期に特化した母子の生活支援施設を増やすなど、孤立を防ぐ取り組みを急ぐべきだ」と求めた。
赤ちゃんポストとは
慈恵病院の場合、外側の扉を開けると、温度が一定に保たれたベッドがあり、乳幼児を預けられる。扉を閉めるとブザーが鳴り、院内のスタッフが駆け付けて保護する。預けた保護者と接触できれば、相談に応じるようにしている。
設置を規制する法律はなく、厚生労働省は「直ちに違法とは言えないが、母子の安全が保証される仕組みではなく、国として推奨はしない」との立場。モルゲンロートは今後、ポストを含む診療所の開設などについて江東区や東京都に届け出た後、区が開設の可否を判断する。