結婚・出産したいけど…子育て支援だけでは「見通しが立たない」 必要なのは未婚・働き方対策〈少子化時代のホンネ①〉
昨年4月にこども家庭庁が発足してまもなく1年。次々と打ち出される子育て支援策は、子どもを育てる人たちの負担感の軽減や、「子どもを産みたい」と思える社会につながるのでしょうか。3回にわたって考えます。
子どもの人生に責任を持てる見通しが…
「結婚はできればしたいし、子どもも欲しい。でも仕事との両立や金銭面で、実現できる未来が見えない」。富山県出身で、東京都文京区で会社員として働く女性(29)は淡々とした口調で話す。
就職して丸7年。デザイナーの仕事にやりがいを感じている。家賃9万円を払うと毎月手元に残るのは20万円弱。「1人で生活する分には十分だけれど、それ以上の余裕はない」。貯金は100万円に満たない。「結婚して子どもを産んだら、仕事は今と同じようにはできないだろう」。そう考えると、経済的にも、やりがいの面でも、ためらう気持ちが強い。
児童手当の拡充、育児休業給付の引き上げ-。「国の支援策は、行き当たりばったりに見える」と女性。「子どもの人生に責任を持てる金額を用意できる見通しが立たないから、産むことを考えられない」と語る。
もう1人欲しいけど、負担が大きすぎる
「本当は、もう1人子どもが欲しいけど…」。そんな人も少なくない。
長野県松本市で7歳と4歳の子を育てる専業主婦(34)は「夫の仕事が忙しくて、ほぼ1人で育てている。負担が大きすぎて3人目の出産に踏み切れない」と打ち明ける。
もともと同県内で正社員として働いていたが、第1子の出産と、夫の岐阜県への勤務地の変更が重なり、退職した。第2子の幼稚園入園に合わせてパートを始めたが、昨秋、再び夫の職場が変わり、家族で引っ越すため、仕事を辞めた。
「仕事を再開するタイミングも難しい」。今の世帯収入は出産前の半分。「子育て期は、夫婦ともに希望する地域で働けたり、働き方を緩めたりできればいいのに」と願う。
対策のスタートライン「もっと手前に」
改善の兆しが見えない少子化。2023年の出生数は過去最少の約75万人(速報値)で、80万人を初めて割った2022年からさらに減った。婚姻数も90年ぶりに50万組を割った。
立命館大教授の筒井淳也さん(53)=家族社会学=は「少子化対策のスタートラインを結婚や出産のもっと手前に置くことが必要だ」と訴える。
国の支援策は「子育て中の人たちの負担を減らせる面はあるが、それだけではバランスが悪い」。支援の対象も「フルタイムの共働き夫婦」を想定したものが多いと指摘する。
児童手当の所得制限廃止や、両親がともに育児休業を14日以上取った場合の育児休業給付の引き上げなどは正規雇用の共働き夫婦向けで、「未婚や非正規の人たちへの後押しにはなりにくい」という。
子育てしながら働く女性は増えたが…
筒井さんによると、20~30年前と比べ、子育てしながら働く女性は増えたが、既婚で正規雇用の人の割合はほぼ横ばいのままだ。30代では「既婚・非正規」「未婚・正規」の増加が目立ち、経済力を維持しながら、結婚・子育てと両立することに難しさがある現実がうかがえる。
「女性は結婚・出産すると働き続けられない。男性は非正規だと結婚できない。そんな『壁』の解消が必要」と筒井さん。「労働時間や勤務地を選べるようにし、非正規でも安定収入を得られるようにするなど、少子化対策としての雇用システムの変革が不可欠」
冒頭の女性は、こう訴える。「仕事を続けたいし、子育てにも手をかけたい。もっと自分の人生を思うままに生きられたら」
=次回は3月27日に掲載予定です。
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