多忙な刑事でも育休を取りました 決め手は「応援が来てくれる」支援要員制度〈パパたちはどう生きるか・2〉

大久保謙司 (2024年5月4日付 東京新聞朝刊)

 本来はやるのが当たり前なはずなのに、父親が育児をすると世間から「イクメン」と特別視されてきた日本の社会。「当たり前」の実現がなお道半ばの状況で、かわいいけれど手のかかるわが子とともに、パパたちはどう生きていくのか―。自身も昨秋に第1子が生まれたばかりのさいたま支局の記者が、埼玉県内の先輩パパたちを訪ねます。

〈第2回〉埼玉県警春日部署地域課 中山兼汰さん(31)

長女の誕生に合わせて育児休業を取得した体験を振り返る中山さん=埼玉県警春日部署で

第1子は妻に任せっきりでしたが 

 吉川署の刑事課に在籍していた昨年12月、第2子の長女が誕生し、約2カ月弱、職場を離れました。出産に立ち会い、妻がつらさを抱えた時期に寄り添うことができました。かけがえのない時間の共有ができたと思います。

 当時の担当は殺人や強盗、わいせつ事件などの捜査を担う「強行犯係」でした。勤務は午前8時半から午後5時15分ですが、事件が起きれば早朝や夜間対応は当たり前。休日でも事件が起きれば駆け付け、署での当直勤務もあります。

 長女が妻のおなかの中にいることが分かった時、正直、刑事の仕事をしながら育児をするのは難しいと思いました。刑事になってからは仕事に追われ気味で、2020年9月に誕生した長男の世話は妻に任せっきりでした。

県警本部がサポート要員を派遣

 警察官も育休を取得できることは知っていました。妻は長女の出産にあたり「取得してほしい」と望みました。でも、自分が抜けると通常業務や当直勤務などで他の署員の負担が増えることが気がかりで、昨年の夏から秋ごろにかけて悩みの時間が続きました。

昨年12月に生まれた長女の世話をする中山さん=埼玉県内で(本人提供)

 背中を押してくれたのは同じ刑事課の先輩でした。警察署で育休を取得した職員の代わりに県警本部の自動車警ら隊から隊員を派遣する「育児休業支援要員制度」のサポートを受けて育休を取得した方でした。「応援が来てくれるよ」。そう説明を受け、「それなら大丈夫かな」と前向きになれました。上司も「こっちは大丈夫だから」。否定的な言葉をかけられることはまったくなく、他の同僚の支えもあり、取得を決めました。

3歳長男と過ごす貴重な時間にも

 昨年11月下旬から今年1月中旬まで仕事を離れました。長男の時は新型コロナウイルス禍で実現しなかった立ち会い出産もかないました。痛みに耐える妻、産声を上げる長女に寄り添ううち、自然に涙が出ました。立ち会いは育休を取得しなくても可能だったかもしれませんが、きっと、仕事を気にせずにはいられなかったと思います。

 刑事として働く中で十分に遊んでやれていなかった長男と一緒に過ごす時間にもなりました。話せる言葉が増えるなど成長著しい3歳の息子と過ごせたことは今しかない経験で、貴重だったと感じます。

仕事のためにも、家族を大切に

 復帰後の今年3月、春日部署地域課へ異動し、巡査部長から警部補に昇任しました。勤務開始の朝から翌朝まで働く「当務」、翌朝の勤務終了後の「非番」、その翌日の「指定休」のサイクルで働く、いわゆる「3交替」の勤務に。家族と過ごし、家事ができる時間が増えたように感じます。

家族との時間を過ごす中山さん(本人提供)

 育児中は「自分ひとり」の時間が少なくなる大変さはあるかもしれません。でもそれ以上に、子どもたちの成長が日々感じられることがうれしいです。仕事から帰宅して、長男から「パパおかえり」と言われると疲れが吹っ飛びます。

 署では刑事としての経験を生かして部下を指導しています。そして、育休取得の大切さも伝えています。家族の仲がよくない状態では仕事もうまくいかないと思います。育児中の人、これから育児を迎える人にはぜひ育休を取得して、家族を大切にしてほしいと願っています。

妻からひとこと

中山朋子さん(29) これまで夫は仕事に専念、子育ては私が中心でしたが、今回の育休を通して、同じ時間を共有することで初めて「2人で子育てをしている」という気持ちが持てました。長い時間、子どもたちと過ごせたことで、(夫は)以前より家事育児に積極的になってくれたと感じます。なによりも夫と長男の距離がグッと近くなり、仲良くなってくれたことをうれしく思います。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年5月4日