連載した記者自身の気づき 妻任せだった勝手な楽観が「変わった」〈パパたちはどう生きるか・番外編〉

大久保謙司 (2024年5月7日付 東京新聞朝刊)

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 本来はやるのが当たり前なはずなのに、父親が育児をすると世間から「イクメン」と特別視されてきた日本の社会。「当たり前」の実現がなお道半ばの状況で、かわいいけれど手のかかるわが子とともに、パパたちはどう生きていくのか―。自身も昨秋に第1子が生まれたばかりのさいたま支局の記者が、埼玉県内の先輩パパたちを訪ねる企画。最後は記者本人が自身の体験をつづります。

東京新聞さいたま支局 大久保謙司(35)

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週末に長男と過ごす筆者=埼玉県幸手市で

出産7日目「理由はわからないけど…」

 この子をちゃんと育てられるだろうか-。昨年11月13日深夜、県外の総合病院の分娩(ぶんべん)室。「オギャ」と元気よく泣く長男を抱いた時、喜びとともに不安に似た心のざわつきを感じました。妻が命懸けで生んだ、3000グラムをわずかに超える程度の小さな命。待ち望んだ誕生を迎えて想定外の心境になった自分への戸惑いも感じたことを覚えています。

 想定外は出産7日目の夜にも。「理由はわからないけど涙が出てくる」。退院し、長男の世話を自分たちでやらなければならなくなった日の夜、妻が心細そうに泣き出しました。普段、弱さをほとんど見せない妻の姿に動揺しました。「産後うつ」「マタニティーブルー」という言葉の意味は知っていましたが、不安を訴える妻を十分にケアする心の準備は整っていませんでした。

当面は育休は取らないつもりだったが

 「育休は取得してほしい。でもタイミングは任せるよ」。出産前、妻から言われていました。出産の前後、担当する警察・司法の分野では大きな裁判や事件の取材が重なっていました。出産後も当面は育休を取得せずに働くことを希望しました。妻は県外の親元にいて、「自分がいなくてもきっと大丈夫」。勝手な楽観がありました。

 仕事は進んで引き受ける-。これまでの記者生活ではそれが正しいと思っていました。「責任をもって働くことが大切」という理由に加え、組織で働く中で仕事から逃げたり簡単に譲れば「次のチャンスはないかも」という思考がいつしか出来上がっていたからかもしれません。「正しさ」は妻の涙で揺らぎました。

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長男の生後100日目の記念日に妻、長男と記念写真を撮る大久保記者=さいたま市で

 12月下旬、仕事が一段落し、約3週間弱の「産後パパ育休」を取得。3人で埼玉で暮らし始め、年明けの育休終了後から本格的に仕事と育児の両立に取り組み、妻は日中、目が離せない長男の世話を1人で担う生活になりました。

国際女性デーで「パパ」に目が向いた

 家事のために少し離れると寂しがり泣き出す長男。あやしたり寝かしつけたりするために思うように家事が進まない日々。長男の将来などを話し合いたくても夫は日中不在です。「ちゃんと夫婦で子どもを育てる時間をもちたい」。1カ月ほどたったころ、そんな希望を聞きました。病院から戻った日と同じように、妻の気持ちが落ち込んでいるのを感じました。

 産後パパ育休とは別に育休を再取得することを考え、妻と相談しました。「仕事があるから取らなくても大丈夫」。妻はそう言いつつも「でも、一緒にいてくれたらうれしい」。同僚の負担を増やす不安はありましたが、妻と共に長男の成長を見守る時間が欲しいと思い、今月下旬から、再び育休を取得することを決めました。

 妻と話し合っていたころ、3月8日の「国際女性デー」の関連取材を担当しました。結婚や育児について仕事の場でも考える中で、同じように育児をする「パパ」たちに目が向きました。パパたちにインタビューして育児や働き方を学べないかと考え、できたのがこの「パパたちはどう生きるか」です。

 パパとして、これからどう生きるか-。答えはまだ見えません。ただ、育児や今回の取材を通じて得た気付きを大切に、妻と「アンパンマン」のお気に入りのおもちゃを振ってシャン、シャンと音を立てることに余念がない長男と一緒に少しずつ探していきたいです。 

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まもなく生後半年を迎える長男を抱く大久保記者=さいたま市で

妻からひとこと

大久保麻里さん(35) 離乳食が始まり、体もだいぶしっかりとしてきた長男の成長を夫婦でほほ笑ましく見守る日々です。妊娠から出産にかけて夫が気遣ってくれるのをうれしく思う半面、共働きで互いの仕事の大変さが分かる分、今後の子育てへの不安が大きいのは事実です。生活や働き方をもう一度見直し、話し合いながら、パパ、ママとして子どもと一緒に成長していくことが大切なのかなと感じています。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年5月7日

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