〈中倉彰子さんの子育て日記〉71・一局指せばもう友達

(2019年2月8日付 東京新聞朝刊)

 シンが子ども将棋大会へ参加した話の続き。毎年楽しみにしており、出場は今回で3回目です。

 会場に着くと、3000人を超える参加者に圧倒されます。藤井聡太七段が作った詰め将棋と巨大迷路を組み合わせたアトラクションもありました。楽しそうで、思わず写真をパチリ。

 前回は3連勝の条件をクリアして予選突破したものの本戦は勝てなかったので、今回は本戦1勝が目標です。さて一局目。緊張の面持ちのシンは最近覚えたばかりの「中飛車戦法」。中央突破の作戦が功を奏し一勝目。遠くから観戦する私の方をチラリ。うれしそうです。

 二局目。序盤から攻め立てる「急戦」の定跡を相手が知らなかったようで、開始直後から優位に立ち、そのまま快勝。

 かなり時間を空けて始まった三局目。盤面は見えませんが、序盤から少し困っている様子。どうやら相手は有段者のようです。4級レベルのシンはずっと苦しそうで結果も負けでした。

 実力差がかなりあったようですが、負けはやはり悔しいもの。この大会は予選で敗れてもたくさん将棋を指すことができます。でもシンは「帰る」と、そそくさと会場から出てしまいました。えー!? 2時間もかけて、せっかくここまできたのにー。アトラクションもやりたかったのにー。

 帰りの電車で、シンはしばらく無言。将棋に負けた気持ちは私もわかるので、シンの無言に付き合います。しばらくして、シンはふと思い出したように「今何時?」。私が答えると、「よし、まだこの時間なら遊べる。ママ急いで!」と、突然急ぎだします。休日は、シンの友達数人が近所の公園でよく遊ぶので、シンも公園に行くのを楽しみにしています。一瞬でコロッと気持ちが切り替わり、ホッとしました。

 この大会が刺激になったようで、休んでいた将棋会館への道場通いも再開しました。やはり真剣勝負を体験させるのは良いことですね。
 

 先日、道場に行ったとき、三局目で対戦した男の子がシンを見かけ、話しかけてくれました。一局指しただけなのに、すぐに友達のようになれるのが将棋の良いところ。

 「ママ、あっち行ってて」。さっきまで「ママ見てて」と言っていたのに…。友達の前だと、格好をつけたがる小2二男子です(笑)。(プロ棋士)