〈坂本美雨さんの子育て日記〉35・やってきましたプリンセス期 「おやつを食べるのだわ!」

(2019年11月15日付 東京新聞朝刊)

ママのドレス、私もちょっと着てみました

赤ちゃんだった頃が恋しい日々に

 ご近所さんに赤ちゃんが生まれたり、友人のところにもうすぐ第一子が誕生するということもあり、なにかと赤ちゃんが娘との話題にのぼり、娘が赤ちゃんだった頃を恋しく思う日々。赤ちゃん返りならぬ、かあちゃんによる「赤ちゃんに返って」駄々こね現象。我ながらめんどくさい。


〈前回はこちら〉34・旅先でなくした大事なカバンが…泣き笑い


 先日もお風呂のなかで、その衝動がむくむくとふくらみ、「ねぇねぇ、ちょっとだけおなかにかえってくる?」とカラんでいたら、「おなかのなかにいたら、お話しできないでしょ!」と、母をさらにデレさせる、娘のパーフェクトな返事。「そうだよねぇー、おなかにいたらチューもできないもんね! ギューもねー!」と調子に乗るわたし。はいはいもういいから、とあきれる彼女。

エモい「ありの~!ままのぉ~~」

 そんなクールな娘にも、やってきました、プリンセス期! 「アナと雪の女王」はまだ観(み)せていなかったのだけど、保育園で覚えてきたのか、「わたしはアナだわ!」「おやつを食べるのだわ!」など不自然な「だわ」が会話に登場するようになり、ヒラヒラしたお洋服に興味を持ちだし、いよいよか、一緒に観賞会か…と思ったら、私の留守中に夫があっさり観せていたのだった。

 それ以降は毎日「アナ雪」のサウンドトラックで目覚め、彼女のハスキーボイスで「ありの~!ままのぉ~~」が響きわたっている。メロディーや音程よりも、こぶしなどのエモーショナルな部分を捉えて再現しているあたり、いい着眼点だなと思う。

ドレスの私を見て涙… その理由は

 そんなプリンセス期の始まりに、商業施設「二子玉川ライズ」のクリスマスツリーの音楽を担当することに。点灯式用に作っていただいた衣装のフィッティングに娘と出掛けた。ツリーと同じコンセプトでアートディレクターの森本千絵ちゃんがデザインしてくれた衣装はキラキラの白いドレス。プリンセスのように大きく膨らんだスカートを引きずらないように少し持ち上げながら着替えて出ていくと、待っていた娘が急にわっと泣きだした。ふだんは動じないのに、珍しい反応。いつものママとあまりに違う姿にびっくりしたのかな、まだまだかわいいところあるなぁといとおしさがこみ上げ、その場をなだめていたのだけれど。

 夜、改めてその時の心境を聞いてみると、「だってさ、ママだけプリンセスになって、ずるいよ!」と怒っていたのだった…。クリスマスプレゼントはやはりドレスにするべきだろうか。そんな悩みを抱えるようになったかと自分に苦笑いしている。(ミュージシャン)