〈坂本美雨さんの子育て日記〉10・心の友よ安らかに
志同じくした友
この春、私の心の友が永い眠りについた。東京・浅草でギャラリー・エフというカフェ&ギャラリーを家族と営んでいたizumiさん。エフを訪れ、彼女に出会ったのは2011年8月。エフには「銀次親分物語」という本にまでなった、美しいたたずまいの銀次親分という猫がいた。
お母さまとおばさまが共にお店に立ち、夜は弟さんがバーのマスターに。カフェの奥にある築150年となる歴史的建造物の土蔵が、ギャラリースペース。その日、私たちは4時間話し込んだ。初めから不思議とシンパシーを感じたし、猫を幸せにしたいという同じ志もあった。
原発事故による警戒区域内の動物たちのことも、たくさん話し合った。izumiさんは、住む人のいなくなった福島県飯舘村に残された犬猫たちの給餌ボランティアのチームを仲間と組み、大量の餌を車に積んで頻繁に現地に通った。彼女は行動の人。控えめだけれどとても強く、勇気ある人。頑固さもあり、いつも自分の意見をはっきりと、でも思慮深く言っていた。
うちの娘が生まれるころ、ガンを患っていることが分かったけれど、みんな絶対に良くなると信じていた。彼女自身も娘を抱き、のちに「生きるチカラ、ありがとね。おばちゃんも今月から0歳だ。いっしょに生きてく」と書いてくれた。
意思を尊重するということ
闘病生活が始まり体は痩せても、柔らかな雰囲気は変わらず、人といるほうが気力が出るからと可能な限りお店にも立っていた。治療の合間の日に会いに行くと、甘いものしか食べたくないと、一緒にソフトクリームを買いに散歩した。闘病は私の想像をはるかに超えるつらさだったに違いないのに、弱音は聞いたことがない。弱さも見せてほしかったのが本音だけれど。
今回の内容は、子育て日記とは違うかもしれない。けれど、私の子育てのこれからに深く影響を及ぼす気がしてならない。犬猫たちの活動にまい進するizumiさんを応援し、最後まで自分の意思を貫いた彼女をずっと支えたご家族の姿を見ていて、本当の意味で子どもの意思を尊重するとはどういうことか、深く考えさせられた。
娘には、izumiさんと触れ合いながら親戚のように育ってほしかった。それはかなわなかったけれど、izumiさんを芯の強い女性に育てあげたご家族とのご縁は続いていく。(ミュージシャン)