高校野球に球数制限は必要か? センバツ出場32校の9割が慎重…「必要」は1校だけ
金足農業・吉田投手の「881球」から議論に
議論のきっかけは昨年夏の全国高校野球選手権大会。金足農業(秋田)の吉田輝星(こうせい)投手が決勝途中まで一人で881球を投げ、健康面から起用法に賛否の議論が起きた。
12月には新潟県高校野球連盟が独自に春季県大会での「1人100球」の制限導入を発表。それに慌てた統括団体の日本高校野球連盟は有識者会議の設置を決め、「全国一律で実施を」と新潟に導入を見送らせた。
「現行通り」「どちらともいえない」各13校
調査は2月に行い、27校が回答した。「現行通りでいい」と「どちらともいえない」が各13校で、慎重派が9割を超えた。
四国地区の高校は、「選手に悔いを残させたくない」と答えた。エース自ら登板、続投を志願するケースは少なくなく、選手の意思を優先する立場から導入に否定的な声が多かった。
「導入すれば私立校に有利」「本質が変わる」
導入すれば、より多くの投手が必要となり、好投手を集めやすい私立校に有利に働くおそれがある。公立校から「私立との差が広がる」「越境入学を先に規制して」と悲鳴が聞こえた。
「野球の本質が変わってしまう」という懸念も。相手エースに対し、ファウルで粘るなどより多くの球数を投げさせ、早期降板に追い込む作戦が増えるかもしれない。
唯一賛成の高校「けがでやめる選手もいるから」
唯一、制限に賛成したのは、九州地区の私立校。「(けがなどで)高校で野球をやめてしまう選手もいる」と理由を述べた。慎重派の中にも、「定着すればみんなで投手をする文化が芽生えるかもしれない」「新しいことに挑戦するのは良いこと」とメリットを挙げる指導者もいた。
米国では野球連盟と大リーグが2014年に18歳以下の選手を対象とした指針を示し、17~18歳は「1日105球まで」だ。
スポーツ医学会が「1日100球」提案しているが…
日本でも日本臨床スポーツ医学会が1995年、「選抜高校野球大会に出場した主戦投手の半数に故障歴あり」として、「1日100球以内」を提言したが、高野連の動きは重かった。
今回はプロ野球DeNAの筒香嘉智(つつごうよしとも)選手や鈴木大地・スポーツ庁長官が「『今』ではなく、子どもの将来を考えてほしい」などと制限導入に賛同し、大きなうねりとなった。2月には小中学生の大会で相次いで導入が決まった。
けが防ぐにはルールしかない 投手生命絶たれた元球児「沖縄の星」大野倫さん
球数制限の議論を歓迎する元球児がいる。1991年全国高校野球選手権で沖縄水産を準優勝に導きながら、けがで投手生命を絶たれた大野倫さん(45)。「球児も投げたい。監督も投げさせたい。けがを防ぐにはルールで縛るしかない」と訴えた。
大野さんは強豪校を次々と破り「沖縄の星」とたたえられた。大会中に右ひじの疲労骨折を負ったが、期待を背に「もう投げられなくてもいい」と決勝までの6試合を完投。球数は773に上った。野手で進んだプロで大成せず、酷使されたひじは今も曲がったままだ。
球児を追い込む背景として「日本には疲労困憊(こんぱい)で連投するからこそ、感動を呼ぶという風潮がある」と、指摘。主催者に環境整備を求めるとともに、「大リーグで大谷翔平が投げる160キロに感動するのと同じように、選手の苦しむ姿ではなく、ベストパフォーマンスにこそ目を向けてほしい」と野球を見る側にも改善を求めた。
現在はNPO法人「野球未来・Ryukyu」で少年野球の指導に励む。小中学生の硬式野球ではすでに球数制限が導入されており、「ルールが変われば、合わせて指導者も選手も工夫する。野球の面白さは変わらない」と改革に期待した。