「学校がなくてつまらない」子どもへ…大人は”提案力”を磨こう 探究学舎の森田太郎さんから、好奇心に火をつけるためのアドバイス
友達に会えない、遊べない、体育や図工ができない
―子どもたちは今、どんな心境に置かれているのでしょうか。
総じて言えるのは「学校がなくてつまらない」ということ。勉強ができなくてつまらないという子は少なくて、「友達に会えない」「遊べない」「体育、図工ができない」といったところで楽しくないと感じているのではないでしょうか。
3月の休校が決まった時、とくに小学生は「やったー」という感じで喜んでいたと思うんです。でも、探究学舎の子どもたちもそうですが、だいたい2週目くらいからつまらなくなったという声が聞こえてきました。子どもは、一緒に遊んだり、何かを作り上げたり、考えたり、人とふれ合う時間がないと満たされない。4月から学校が始まれば、また友達と会えて、新しい学級で楽しく過ごせるだろう、と期待していたタイミングでの休校延長。子どもたちはきっと落胆しているでしょう。同時に、学校の価値を再認識した子も多いのではないでしょうか。
―学習面の遅れを心配する保護者も多くいます。
始業式や登校日に教科書と課題を渡されたのではないでしょうか。漢字ドリルや計算ドリルをやっている姿を見て、親は安心します。しかし、子どもたちはドリルをやりながら、考え、学んでいるというよりは、早く終わらせたいと思っているでしょう。僕は教員時代、それを「学習」と呼ばずに「作業」と呼んでいました。
「基礎力」は必要になれば身につくから大丈夫です
―基礎力が身につくという話もありますが。
子どもたちの中に、目指すもの、燃えるものがあれば基礎はすぐに身につきますよ。僕は高校3年生のセンター試験の英語が200点満点で24点だった。でも、国際関係学部に行きたいという目標ができて一浪で180点を超えました。
点数が伸びないとか、5年生なのに九九ができないとか、親は焦ると思いますが、13年の教員経験から言うと「大丈夫」。今、計算ができなくても、必要になれば身につく。絵が好きな子に「1000円渡すから、これで好きな画材を買っておいで」と言った時に、どうしたらいいかを考える。その計算に時間がかかったら、計算が速くなりたいと思うでしょうし、今ならスマホのアプリがそれを解決してくれるかもしれない。
今回の休校期間は、基礎力を身につけるより、全く先行きが見えない中で、子どもたちが、自分が本当に楽しいというものを見つける方に思いっきり力を入れた方がいいと思います。
メニューのない日常だから、興味のあるものを探す
―では、ここから約1か月、どのように過ごせばいいのでしょうか。
3月以降、子どもたちは初めて「メニューのない日常」を過ごしてきたように思います。学校があると、メニューは決まっています。朝起きて、ご飯を食べたら、学校に行く。学校でも時間割というメニューがある。
しかし現在は、自分たちでメニューをつくらなければならない。この状況をポジティブに捉えてもらいたいのです。興味のあるものを自ら探し、それを軸に1日をデザインする機会にしてほしい。そして興味を持った何かについて、親子で話してほしいのです。
―でも、子どもの興味の対象を見つける方法が、親も分からないのが実情です。
親と子どもの感覚にずれがあって、難しいんですよね。下の相関図を見てください。親って、どうしても「良いか悪いか」で考える。子どもは「楽しいかつまらないか」で考える。例えばゲームとかYouTubeは、子どもにとって楽しい。けれど、親にとってはあまり良くないものとして捉えられている。一方、親には「良い」もので子どもには「つまらない」ものの代表が、ドリルとか漢字の書き取り。要するに、図の右上「子どもにとって楽しく、親にとって良いと思える」ものを見つけていくんです。
学齢や性格に合わせて、親が”提案”することが大切
例えば、生き物が好きな子は、実際に飼ってみて観察して記録する。本が好きな子なら、感想をSNS上でいろんな人に紹介して、読書好きの人とつながっていくとか。
いきなりは見つかりません。大切なのは「親の提案力」なんです。子どもが興味をもちそうなものについて、学齢や性格に合わせて適切なタイミングで適切なものを提案する。
外に出かけられないなら、コーヒー1杯からでもいいんです。「このコーヒー、どこから来てるか知ってる?」「1杯400円するのはなぜ?」。そこからフェアトレードの話になるかもしれないし、植民地支配とか歴史の話になるかもしれない。
うちでは、世間で話題になった「鬼滅の刃(きめつのやいば)」のアニメを子どもたちと一緒に見た後、漫画を渡したんです。そうしたら、4人で読み合って「なんでこの人はこんなこと言ったんだろう」「このキャラクターは家族を大事にするから好き」と、「鬼滅会議」をやってました。小学1年の一番下の男の子も、キャラクターや技の名前を覚えて一生懸命会話についていく。覚えたいという気持ちがあれば、自分から反復する。「音読しろ」って言わなくてもいいんです。難しい漢字も覚えますし。
先生もつらい…でも休校明けの授業改革のチャンス
―それなら、一人っ子でも親子でできますね。
そうです。親はとにかく、提案力を磨いてください。アンテナを張って、子どもが何に興味を持っているのかを知って、それに関連するものを提案してあげる。家で一緒に映画を見る、絵を描いてみる、本を読んでみる、インターネットでおもしろそうな講座を探す。なんでもいいんです。在宅勤務になった人は、仕事をしている親の姿を見せるいい機会です。
ただ、一人っ子で親が働きに出なきゃいけない、外に出られない、ネットもつなげられないとなると、つらいでしょうね。一緒に過ごす時間をなんとかしてつくってあげてください。
―先生たちへのメッセージはありますか。
学校の先生もつらいと思います。子どもが来ないから。教師は子どもと会っている時が一番いきいきするんですよ。なので「こういう問題を作ったら子どもたちはどういう反応するかな」と想像しながら動画などを作ってみてはいかがでしょうか。一方的な教え込み、反復練習じゃなくて、子どもが楽しい、知りたい、と思うような仕掛けをクイズにするなど、遊び心も入れていく。休校明けの授業を大改革できるチャンスだと思いますよ。
森田太郎(もりた・たろう)
静岡県立大学で国際政治とロシア語を学ぶ。在学中からボスニア・ヘルツェゴビナにたびたび渡航。サッカーによる民族融和を目指し少年サッカークラブを立ち上げた経験などを元にした論文で『秋野豊賞』を受賞。著書に『サッカーが越えた民族の壁――サラエヴォに灯る希望の光』(明石書店)。
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