川崎殺傷事件から1年、今も登校できない児童がいます 心のケア、見守り活動はこれからも
「赤色を見るのが難しい」「夜1人で眠れない」
カリタス小学校の倭文覚(しとりさとる)教頭によると、児童らは「赤色を見るのが難しい」「夜1人で眠れない」「背後が怖い」と苦しみ、当初は授業に集中できず、今も登校できない児童もいる。事件後は児童らの心のケアに努めるカウンセラーの人数を増やし、今年3月までに延べ1882件のカウンセリングを行った。
亡くなった栗林華子さん=当時(11)=のいた6年生のクラスでは事件後も、子どもたちの「いつまでも忘れたくない」との願いにこたえ、担任教師が毎朝の点呼で栗林さんの名前を呼び、クラス全員で返事をし続けた。3月の卒業式には栗林さんの保護者も出席。卒業証書は児童の代表が受け取ったという。
学校で追悼ミサ 自宅で見られるよう動画配信
28日の追悼ミサは同校教員のほか、学園の教職員など約70人のみで執り行い、栗林さんの保護者も出席。児童らには自宅などで見られるよう動画配信サービスYouTubeで同時配信される。
事件は、昨年5月28日朝、川崎市多摩区登戸新町の路上で岩崎隆一容疑者=当時(51)=が児童や保護者を包丁で次々と切り付け、栗林さんと、別の児童の保護者で外務省職員の小山(おやま)智史さん=当時(39)=を殺害し、児童ら18人に重軽傷を負わせた。岩崎容疑者は事件直後に自殺。その後容疑者死亡のまま書類送検され、横浜地検は不起訴とし、動機などは解明されていない。
毎月28日「見守りの日」 コロナ休校経て3カ月ぶりに再開
事件発生から1年。地元の多摩署と多摩区役所は、事件を忘れず子どもたちの安全を第一に見守ろうと、毎月28日を「多摩区子ども見守りの日」に指定。この1年間、地域住民らと協力して区内に15校ある小学校の登下校時に、児童の見守り活動を強化してきた。
新型コロナウイルスの影響で市内の小、中学校などは3月から休校状態が続き、28日の見守り活動は4月まで休止した。しかし、署は学校に限らず、子どもが集まる公園の周囲などの巡回を強化してきた。国の緊急事態宣言の解除を受けて小学校などが分散登校を始めたため、28日は3カ月ぶりに見守りの日の活動を再開する。
多摩署は事件後、ツイッター公式アカウントで、不審者情報を充実した。不審者が出たとの情報がある地点を示した区の地図の掲載は新たな取り組み。地図は登下校時間帯の午前7~9時、午後2~6時と、終日版の3種類がある。発生場所や不審者の細かな情報も発信して注意喚起を促している。
事件から1年を迎え、多摩署の倉林徹署長は「子どもたちが無事に登校し、無事に帰っているのが見守り活動の成果。これからも子どもたちが笑顔で通学できる環境をつくり、保護者の方々に安心感を与えたい。署員はわが子を見守るような気持ちでやっています」と述べた。
多摩区役所は「防犯パトロール中」というステッカーを作り、区のパトロール車のほか、郵便局や関連団体の協力で配達車などの車体にステッカーを貼って防犯活動を強化している。
多摩区危機管理担当の伊藤公一課長は「地域住民や、郵便局、消防署にも協力していただき、消防車は移動の際に学校の近くを迂回(うかい)してくれている。子どもの見守り活動に終わりはない。皆さんの地道な活動に支えられている」と頭を下げる。
川崎市長がコメント「地域の連携を強化していく」
川崎市の福田紀彦市長は事件から1年にあたってのコメントを出した。
殺害された2人に哀悼の意を表した上で、「事件を契機に多摩区では地域の見守り活動が強化され、市もスクールガードリーダーの増員など、子どもの安全を守る取り組みを進めてきた。市をはじめ関係機関や地域の皆さんが多面的かつ重層的に関わる必要がある。事件を教訓にさらに地域の連携を強化していく」とした。