コロナ休校が高校生に深い影響 最悪のケース「教育中断」への備えが必要です 立教大・中原淳教授が調査と提言

福沢英里 (2020年9月29日付 東京新聞朝刊)
  新型コロナウイルスの感染拡大による一斉休校の影響で、生活リズムの乱れや学習時間の減少など、高校生にさまざまな影響が出ていることが、中原淳・立教大経営学部教授の調査で分かった。学びを保障し、深めていくために、中原教授は最悪のケースを想定した備えの必要性を訴える。

立教大の中原淳教授

生活リズムの乱れ、学習時間の減少

 -調査の概要と狙いは。

 首都圏の高校生760人に5月、ネットで実施しました。今回の休校は専門用語で「教育中断」と言います。世界銀行は、5カ月間の学校閉鎖が子どもの生涯収入を低下させかねないと指摘。学習が遅れて進学や就職で不利になり、子どもの将来に大きな影響を及ぼすということです。しかし、教育中断のリスクや影響を定量的に把握した研究はほとんどない。学校は子どもの生活を支えており、調査で「二度と起こらないような態勢をつくってほしい」とメッセージを発信したかったのです。

 -不安を抱える高校生の実態が明らかになりました。

 休校中、生活リズムが「不規則になっている」と答えた生徒は66%。スマートフォンの利用時間や睡眠時間が通常より各2時間以上増え、4月の1日の勉強時間が30分以下となった生徒は約3割いました。精神面への影響も大きく、複数回答で「ネガティブな気分」は70.4%、「将来が心配」は80.5%でした。

 -学校のICT(情報通信技術)環境が影響したのでしょうか。

 学習時間を左右したのは、ICTの整備度合いではありません。学校ホームページに課題を示すなどの取り組みをした場合に比べ、していない場合は学習時間が25分少なかった。休校中に何をすべきか学校が働きかけないと、生徒は何をしていいのか分からず、とりあえずスマホ、ゲームとなってしまうのです。

オンライン授業より「3つの機能」

 -学校へ求めることは。

 再び休校した場合、学びの「保障」と「アップデート」の両輪を回してほしい。前者は単に「オンラインで授業をする」ことではありません。

・生活リズムを整える
・生徒同士のつながりや教師から見守られる感覚を保つ
・授業と学習を促す

の3つの機能を対面、非対面を問わず素早く復活させることです。家庭で課題に取り組む際、分からない点はいつでも先生に質問できる環境があることが学びのアップデートには必要です。

学校現場に「対策」がなさすぎる

 -なぜ学校は止まったのでしょうか。

 今年2、3月に感染が広まった時、学校現場では「4月になれば授業ができる」と誰もが思っていました。自分に都合のいい状況だけを見る「確証バイアス」です。最悪の事態に備え、リスクを見積もり、対策を立てる習慣は企業では当たり前でも、学校現場になさすぎるのです。

 -今、優先すべきことは。

 ICT環境の整備はもちろん、休校時に誰がどう連絡を取るのか、少ない電話回線のままでいいのか考えることはたくさんある。高校生の皆さんも次に休校したらどう行動するか考えてほしい。私の勤務校は、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」のアカウントを全学生に付与するなど、大学の学びも変わっている。有事でも学び続けられる環境なのか、大学進学の際は見極める必要があります。

中原淳(なかはら・じゅん)

 1975年、北海道旭川市生まれ。大阪大大学院人間科学研究科を修了後、米マサチューセッツ工科大客員研究員を経て2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに企業や組織の人材開発を研究。近年は学校の人材育成も対象にする。著書は「職場学習論」(東京大学出版会)など。