少人数学級の是非、識者の声は 「子どもの多様性に対応。学力以外でも効果」「ハード面で困難。友達の幅も小さくなる」

土門哲雄、森本智之 (2020年12月13日付 東京新聞朝刊)
 公立小中学校の「少人数学級」実現を目指す文部科学省と教員増による支出を抑えたい財務省との間で来年度予算を巡る攻防が続いている。少人数学級の必要性と課題について、教育社会学者と、子どもの人権の観点から憲法学者に話を聞いた。

90年代から教室の中は「複雑化」 40人を30人以下にすべき(本田由紀・東京大大学院教授)

家庭背景などで不利な子どもに効果

 児童生徒一人一人にきめ細かく対応できるよう、現在は1クラスの上限を40人(小学1年生は35人)とする義務教育標準法を改正し、30人以下に引き下げる必要がある。

 1990年代以降、格差や貧困の拡大、外国人の子どもの増加などで、教室の子どもたちの実像は複雑化している。学ぶ方法やスピードはそれぞれで、個性や違いを大切にした対応が求められている。

 財務省は学力ばかりを効果とみなして「効果はないか、あっても少ない」としているが、学力だけでなく、教員と子ども、子ども同士の関係や子どもの気持ちに良い影響があるとの研究結果が数多くある。学力についても、特に家庭背景などで不利な子どもたちが多い学校で少人数学級の効果が上がっている。

教員を増やすには労働環境の改善を

 1クラスの定員を減らし、学級数の増加に対応した教員の「基礎定数」を増やす必要があるのに、これまで国は政策目的に応じた不安定な追加配置(加配)でごまかしてきた。

 自治体は、それぞれの努力で少人数学級や少人数指導を実施しようとしているが、多くは非正規雇用の教員で対応している。全国一律、同じ条件で学べるよう法改正し、正規教員を増やす必要がある。

 採用倍率が下がっているのは、教員が過重労働で、これを忌避しているから。労働環境の改善が必要。校内でのコロナ感染を防ぐ必要もある。今こそ少人数学級でのびのびと学べるようにすることが大事だ。

本田由紀(ほんだ・ゆき)

 東大大学院教授。教育・仕事・家族の関係の実証研究を行う。

空き教室が少なく実現困難 多様性が奪われるデメリットも(木村草太・東京都立大教授)

「コロナ対策」は火事場泥棒の主張

 最大の懸念はハード面にある。少人数学級にすると、クラスを増やすことになるが、普通は大規模校ほど空き教室に限界があり、簡単には増やせないだろう。そもそも実現性があるのか疑問だ。

 感染対策になるという根拠も分からない。休み時間や登下校中など授業以外にも感染リスクは無数にある。新型コロナウイルス対策が目的ならオンライン授業になるはずで、コロナを理由に少人数学級を求めるのは火事場泥棒的だ。

 デメリットも考えてほしい。人数が減るとクラスの多様性は確実に下がる。付き合える人間の幅が小さくなり、仲の良い友達と出会える可能性も減る。小学校時代を思い出してください。クラスの人数が半分になれば、仲が良かった友達の数も単純に半分になる。それは面白いかつまらないかと言われるとつまらないでしょう。この点をあまり真剣に検討されているのを聞かないが、見落とされる要素もあることに注意が必要だ。

教員増には賛成 ただ目的を明確に

 一方で、教員を増やすことは否定しない。クラスを増やすのではなく、クラス内で学習が遅れている子や、外国籍で日本語があまりしゃべれない子にきちんとフォローするため特別に担当する先生を付けたりするのはとてもいいことだ。

 漠然と少人数学級にするのではなく、目的を明確にして教員を配置することが重要で、ただクラスを増やすだけでは、お金をかけた割に政策効果は上がらないことになるのではないか。

木村草太(きむら・そうた)

 東京都立大教授。専門の憲法を切り口に論壇でも活躍する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年12月13日

コメント

  • 現場で働いているものとしての意見ですが、1クラス二十数名の学級をもった時は、授業中の活発な意見交換が少なくなるといったデメリットの他は、授業中子供たちがどこでつまずいているかすぐに把握できる、支援が必